【小説】私の話を聞いてください。
私は現在、主婦をしています。可愛い子供に囲まれて、優しい夫と共に幸せに暮らしています。
そんな私ですが、小さい頃は家を転々としていました。
いわゆるDVを父に受け、母は私を連れ家を飛び出しました。ひとつの所に留まれば、父に見つかるかもしれない。そんな思いから、各地を転々していました。私たちには頼れる人はいませんでした。
母は永住権を持っていましたが、長くそこに留まれないため仕事もままなりません。
引っ越すにはお金がかかります。そこで、事故物件に住むようにしていました。みなさんは知っていますか?
事故物件に誰か一度住むと、不動産屋は伝える義務はないそうです。そんな需要が存在するのです。
アルバイト感覚で住み、お金を貰います。時には、大家さんから個人的に食べ物を頂くこともありました。母は幼い私を連れているため、同情を引くのがうまかったように思います。
事故物件ですから、心霊体験も何度もあります。
夜中目覚めると枕元に知らない誰かが立っていたり、ドンドンと人が住んでいない部屋から物音がする事もありました。
必ず刺されて死ぬか行方不明になるアパートにも住みました。隣の人は刺されたそうですが私たち親子には特に問題はありませんでした。
月に一度行方不明者が出る、労働者寮にも住みました。交通事故にあいましたが特に大きな怪我もなく無事でした。
他にも無理心中した部屋や、孤独死した部屋。様々な部屋に住みました。
そのおかげで、どうやら霊感が強いという事がわかりました。そして、幽霊達と会話ができる事も知ったのです。彼らはいつも睨んでくるばかりでしたが時折、幼い私の遊び相手になってくれるのもいました。
母は次第に私を気味悪がるようになりました。そりゃそうだと今なら思います。自分の子供が何もいないところに向かって話しかけていたら誰でも驚くでしょう。
それでも母からは離れませんでした。母しか頼れる人はいなかったんです。
私が10歳くらいの頃でしょうか。母はついに限界を迎えました。暴力を振るうようになったのです。
「お前がいるせいで、私は幸せになれない」
「早く死ねばいいのに」
暴言の数々を浴びさせられ、ついには首を絞められ殺されかけた事がありました。
母は「お前には悪魔が憑いている」と言いだしました。
私には何かがツイていて幽霊たちと話せるのだと。そして、それは私の事は守るが自分、つまり母のことは守ってくれないと。だから、母は私を殺そうとしたのだと言っていました。母はおかしくなっていました。
DVを受けていた影響か、少し情緒不安定なところがありました。でもまさかここまでとは思いもしませんでした。母のことを支えたいと思っていましたが、私はその時に決心します。
この母親から離れよう。こんな母親と一緒にいたらまた殺されるかもしれないと。不幸にもまだ小学生だったので一人で生きていく力なんてありませんでした。そこで児童相談所に相談してみることにしました。しかし、当時住んでいた場所ではそういった機関はありませんでした。
私は母の暴力とツイている何かの間で揺れていました。
ある時、限界を迎え家出しました。
私は今幸せです。母がどこで何をしているかは分かりません。私がいちばん怖かったのは私を睨む母の顔でした。
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