【小説】階段の先
「あそこ嫌な感じするんだよな」
父は言った。帰り道にある公衆ボックス。
くらい中ぽつんと光を放ったいかにも古いそれはどこか異質な雰囲気を持っていた。
「そうだね、でもあっちの方が嫌な感じするよ」
私はそう言って指さした。私が通う小学校は坂の上にあるため、少し下る形になる。そしてその途中には長い階段があった。私は階段を通らないから下に何があるか知らない。
その階段の下の方は真っ暗で何も見えない。ただただ暗い闇が広がっている。
私はあの階段を見る度に何かに呼ばれているようなそんな感覚に襲われるのだ。
私はじっと階段を睨みつけたが、父が歩き出した。私もそれに続いて歩いた。
結局その日は何も起きなかった。しかし私の心には得体の知れない不安だけが残った。
今日は小学校が半日の日だった。過疎化の進むこの街は年に何度か近くの小学校の先生たち同士で交流会があるらしい。だから、私たちはいつもより早く帰れる。帰り道を進むとあの階段が現れた。
行くなら今しかない。何故かそう思い、一段一段踏み締めなから降りた。
降り終えると、道が1本続いていた。住宅街の間を縫ったように通る1本の道。
真っ直ぐ、歩くとそこには小さく寂れた神社があった。鳥居はくすみ、お賽銭箱は朽ち果てていた。
神社の境内に入ると辺りを見渡した。誰もいないようだ。
すると後ろから誰かの足音が聞こえた。思わず振り返ったが誰もいなかった。気のせいかと思い再び前を向くとまた背後から音が聞こえる。
あの道以外にここに来る方法があるのだろうか。後ろに誰かいたのか。
気が付かないふりをして境内を見て回る。
よく見ると、お花が置かれている。誰かが手入れをしているのかもしれない。
そして奥まで来た時だった。
目の前に人がいた。驚いて声を上げそうになったが必死に抑えた。
そこに居たのは私と同い年くらいの少女だった。髪は長く黒かった。
こちらに背を向けて、気がつく様子は無い。どうしようか迷っていると彼女が振り向いた。目が合う。
少女の顔は美しく整っていてとても可愛らしかった。少女の目が大きく開かれた。
「あなた……誰?」
鈴の音のような綺麗な声で彼女は聞いた。
「えっと……」
なんて答えようか考えていると少女はクスッと笑った。
「いいよ、言わなくても。一緒に遊ぼう。」
彼女は優しく微笑んだ。
彼女の名前は真菜と言った。私たちはすぐに仲良くなった。毎日ここで会って遊ぶようになった。
真菜ちゃんはすごく物知りだった。
例えばこの神社の由来とか、近所の美味しいパン屋さんとか。とにかくなんでも知っていた。
それに凄く可愛い。笑う顔はとても素敵だ。こんな子が友達になってくれて嬉しく思った。
ある日のことだった。いつも通り神社に行くと珍しく真菜ちゃんの姿がなかった。どこかに行ってしまったのかなと思って待っていることにした。
5分待っても10分経っても帰ってこない。心配になった私は探しに出かけた。
そういえば、真菜ちゃんってどこの小学校なんだろう。
神社以外で見かけたことないな。ふと疑問に思う。
色々考えながら探したが見つからない。神社に戻る。あの階段が見えてきた。嫌な予感がした。私は急いで駆け下りた。段々と息が上がる。それでも走った。しばらく走ると道に出た。
あれ?ここは何処だろう。見たことの無い場所だった。
あの小道は跡形もなく、ただの住宅街へと出てしまった。
あの道はどこに行ってしまったのか。神社はどこにあるのだろうか。分からない事だらけで頭が混乱する。
とりあえず来た道を戻ろうと思ったその時だった。
「おい!」
突然後ろから怒鳴り声が聞こえた。怖くなりその場に立ち尽くしていると男が近づいてきた。見覚えのある男だ。父の友人である、佐藤さんのお父さんだ。
「美幸ちゃん、探したぞ。こんな遅くまで何してるんだ。」
気がつくと、日が暮れていた。
おじさんに手を引かれながら帰る。
あまにり私が帰ってくるのが遅いから父に頼まれて探していたらしい。
おじさんに聞いても神社について知らなかった。
真菜ちゃんには会えないのだろうか。
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