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【小説】眠気の先

眠気の先にはなにがあるのだろうか。
そんなことを考えているうちに、僕は眠りについてしまった。
そしてまた夢を見た。
真っ暗な場所を歩いている夢だった。
どこまでも続く暗闇の中をひとりで歩いていた。
自分がどこにいるのかわからないし、そもそも前に向かって進んでいるかもわからなかった。
ただ、足が勝手に動いていたのだ。
しばらくすると、前方に光が見えてきた。
その光があまりにも眩しくて、思わず目を細めた。
少しずつ目が慣れてきて、ようやくそれが人影だということがわかった。
それは女性だった。
顔はよく見えないけれど、髪が長くてスタイルの良いシルエットをしている。彼女はこちらを振り返ると、優しく微笑んだような気がした。

次の瞬間、僕の意識は覚醒した。
目を開けるとそこはいつもの部屋で、窓から朝日が差し込んでいた。
どうやら寝落ちしてしまったらしい。
スマホを見ると、すでに朝になっていた。……なんだろう?この違和感は……。
しかし、それ以上考えることはできなかった。
なぜなら―――。
ピンポーン! チャイムが鳴ったからだ。
こんな時間に誰だろうと思いながらドアスコープから外を覗くと、そこには女の子がいた。
長い黒髪を後ろで束ねたポニーテールの少女だ。
彼女が着ているのは、僕が通っている高校の制服であるブレザータイプの紺色のセーラー服だ。
つまり、彼女の正体はすぐにわかった。
慌てて玄関に向かい扉を開けると、そこに立っていた少女が元気よく挨拶をした。

彼女の名前は、小鳥遊結衣という。年齢は16歳。僕と同じ高校に通う同級生であり、同時に同じマンションに住む幼馴染でもある。
僕たちはいわゆる幼なじみの関係なのだけど、小さい頃からずっと一緒に育ってきたこともあってか、今では家族のような存在になっている。
そして今日、彼女はなぜか朝早くから僕を訪ねて来たのであった。

「昨日変な夢を見たの」
彼女は呟いた。どうやら彼女も同じ夢を見たらしい。
ちなみに、昨日というのは月曜日のことである。
あの夢の続きを見るかもしれないと思ってベッドに入ったものの、結局そのまま眠りに落ちてしまった。
だから僕は今朝起きた時、どんな内容の夢だったのか思い出せなかった。
だけど、今こうして彼女に話を聞いてみて納得した。
確かにあれはただの夢ではなかったようだ。

眠気の先にあるもの。それはきっと――。
僕らはその後すぐに学校に向かった。
登校中、電車の中で、学校で授業を受けている間も、僕は何度も繰り返し考えていた。
昨夜見た不思議な夢のことだ。
はっきり言ってとても奇妙な体験だったと思う。
でも不思議と怖いとは感じなかった。むしろ心地よいくらいだった。
それどころか、もう一度あの世界に行ってみたいと思っている自分がいることに驚いた。

そんなことを考えていたせいだろうか? 午後の授業中にふいに強烈な睡魔に襲われて、いつの間にか居眠りをしてしまっていた。
そして、またしても夢を見た。
どこか見覚えのある景色の中を歩いている夢だった。
どこなのかはっきりと思い出せないけれど、おそらくこれは自分の記憶の中にある光景なのではないかと思った。
きっと僕と彼女の幼い時の記憶。だから、同じ夢を見るのだ。
しばらく歩くと目の前に小さな女の子が現れた。
その子の顔を見てハッとした。…………そうだ、ここは幼稚園の帰り道だ。
当時のことを思い出しながら改めて周囲を見回してみた。
間違いない。

やはりここは僕たちが通っていた幼稚園の近くだ。ということは、隣にいるこの子は結衣ちゃんに違いない。
そう思って横を見ると、彼女はもうひとり別の女の子と一緒に歩いていた。
その女の子のことを、僕はとても良く知っていた。
なぜなら、その女の子こそ、もう一人の幼き日の自分自身だったからである。
つまり、今の自分にとっては過去の出来事だが、この子にとってはまだ起こっていないこと。


「ねぇ結衣ちゃん。私が私じゃなくなっても友達でいてくれる?」
「もちろん!」

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