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「決め方」の科学-オストロゴルスキーのパラドックス-

はじめに

慶應義塾大学の坂井豊貴先生の著書をもとに、昨今の政治状況を参考事例として扱いながら、「決定の方法」についての理解を深めていきたと思います。

この本では、決め方を経済学的に学ぶことができる本であり、難しい数式も登場することもない。多数決は本当に良い意思決定と呼べるのだろうか。このような疑問にも、様々な事例や角度から答えてくれます。このような疑問を一度でも持ったことがある方には、ぜひ一読を勧めたい、そんな一冊です。

本Noteの内容について、誤りがある場合、書籍に誤りがあるのではなく、私の理解不足、誤認識に基づくものかと思いますので、その点ご留意いただけますと幸いです。

オストロゴルスキーのパラドックス

オストロゴルスキーのパラドックス(Ostrogorski paradox)は、投票のパラドックスを説明する理論のことです。英語では下記の通り説明されます(日本語は拙訳)。

if during an election each voter picks the party with which he agrees on a majority of issues, it is nevertheless possible that a majority of voters disagrees with the winning majority party on every issue.
選挙中に、各有権者が過半数の争点で賛成する政党を選んだとしても、有権者の過半数がすべての争点で勝利した多数党と意見が合わないことはあり得る。
Ref | https://ejpr.onlinelibrary.wiley.com/journal/14756765

要するに、この政党の政策には半分以上に賛成できると思って投票したけど、各党の政策ごとに良し悪しを判断できる投票形式であれば、結果が逆転するパラドックスのことです。

おもしろいパラドックスです。政治家は「国民に信を問う」「国民の民意なんだ」という類の発言をしているのをたびたび目にしますが、このようなパラドックスが起こっている場合、「民意が反映されている」とは強く主張するのは難しいかもしれません。

選挙ドットコムさんの衆院選2024「政党を選んで政策を比較しよう!」の各党の政策ごとへの態度を事例に考えてみます。態度が反対の回答になっている政策をピックアップしてきました。国民民主党は「減税、原発推進」ですが、立憲民主党は「増税、原発非推進」です。

そして、この5つの政策争点に対して、この選挙区では、AからIまで9人の有権者が、各政策に対して、どちらの政党に賛成しているかを表すデータがあったとします。

表の読み取り方については、Aさんであれば・・・

  • 大企業に対する課税を強化するべきだ:立憲よりの考え

  • 高齢者の医療費の自己負担の割合を増やすべきだ:国民よりの考え

  • 消費税を10%から引き下げるべきですか?:国民よりの考え

  • 原子力発電所を増設するべきだ:国民よりの考え

  • 原子力発電所の再稼働を進めるべきですか?:国民よりの考え

以上から、Aさんは基本的には国民民主党よりの考え方に近く、投票先は国民民主党ということになります。他のBさんからIさんについても同様です。

このような前提で考えると、この選挙区では国民民主党の候補者が当選することになり、立憲民主党の候補者は落選となります。

では、この「多数決」の方法で意思決定をした場合、国民の民意は適切に反映されているのでしょうか。適切とはなにか?という議論はさておき、多数決で見た時に、それを表しているのが表の「間接的」という列の値です。この値を読み取ると、実は各政策ごとでは、立憲民主党よりの考えのほうが支持している有権者が多いのです。

「議論などはいらない、我が党の候補者は選挙区で選ばれたんだ、だから政党の公約=民意を実現するのだ。」というのは、このような現象が起こっているかもしれないので、よろしくないのかもしれませんね。

一説として、奈良大学の与謝野有紀先生の研究ノート「代議制における投票のパラドックス」では「ある条件のもとで、ある党が100%の得票率で選ばれたとしても、オストロゴルスキーのパラドックスが生じる可能性を棄却できないこと、パラドックスが生じる可能性は予想以上に確率が高いこと」が説明されていたりします。

おわりに

「決め方」を少し変えるだけで結果が逆転してしまう、オストロゴルスキーのパラドックス、面白いですね。

このような現象が仮に投票の背景にあるのであれば、国民民主党の「政策ごとに是々非々「案件ごとの政策協議」というスタンスは良いですね。国民民主党としても、譲れないところはあるにしろ、他政党の議員との政策議論を通じて、より国民のためになる政策を実現してくれることを期待できそうです。

つまり、「政策ごとに是々非々」というのは、現行ルールでは、有権者の投票数をもって当選することになりますが(表を縦に読む)、意識的に民意(表を横に読む)を反映させることができるものかもしれません。

仮に将来、国民民主党が政権与党になったとしても、自分たちの政策を押し通すのではなく、「対決よりも解決」の旗印の下、他党の政策の良い部分は取り入れつつも、国民が抱える問題を解決してくれる、そんな政党になってくれるとよいですね。

次回は、引き続き坂井先生の書籍を参考に「ボルダルール」について、書いていこうと思います。

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