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国際機関で働いてみて分かったリアル
1月のパリは、いかにもヨーロッパの冬らしい曇天。新しい仕事、新しい生活を始めるには、あまり歓迎的な雰囲気ではないが、パリ流のアンニュイとして受け入れた。
昨年末、約8年勤めた日本の企業をやめて、パリのとある国際機関に転職することにした。前職とは全く異なる職場の雰囲気に当初は面喰らったが、一年経った今はもう少し俯瞰して説明できるように思う。総じて愚痴のような内容が多いけれど、国際機関の現実の一側面であることは間違いないので、参考になれば幸いです。
前置き
「国際機関」といえでも、フィールドワークの多い機関もあれば、私のようにデスクワーク中心の機関もある。また、同じ機関でも部署によって内容は大きく変わるし、管理職の人柄によって雰囲気が大きく左右される側面が強いので、「国際機関はこういうもの」と断定することは難しく、あくまで私の体験として読んでいただければと思う。
縄張り争いが激しい
縄張り争いはどこの職場にも少なからずあるけれど、私が所属する部署ではそれが顕著だと感じる。新しいトピックに注目が集まると、どこの部署も我先にとその分野を開拓しようとし、後から参入しようとする部署を排除する力学が働いている。
例えば、あるプレゼンを準備していたとき、他部署から自分たちの宣伝文句を盛り込むよう要求されたこともあれば、逆に他部署との関係を刺激しないよう、プレゼンから肝心な問題点を削る必要があったこともあり、仕事の質が犠牲になっている。
なぜこのようなことが起きるのか考えてみると、それは安定した資金源がないことが挙げられる。私の部署では、プロジェクトごとに外部資金を確保しなければならず、他部署は競争相手であるという意識が強い。税金という安定財源をもとに、トップダウンで部署毎に資金が配分されていく日本の公的機関とはここが大きく異なる。
もちろん、国際機関にも加盟国の拠出金という安定財源はある。ただ、転職して初めて知ったことなのだが、安定財源によって賄われる度合いは部署によって違うのである。歴史のある花形部署は財源が安定しているが、私が所属する歴史の浅い部署は外部(例えば欧州委員会)からの資金に依存しているのが現状だ。
データドリブンとは言い難い現実
外部資金に依存する弊害の一つとして、データの厳密性よりもメッセージ性が優先される傾向が挙げられる。それはプロジェクト委託者が、国際機関に求めているのは厳密な政策分析ではなく、自らの政策アジェンダの正当化であることが少なからず影響しているように思う。
このためか、私の部署は弁が立つ人は多いが、データ分析に疎い傾向があり、少し凝った分析をすると「そのグラフは難解だから削除しよう」と指摘されたり、因果関係が曖昧な回帰分析を堂々と因果推定として扱ったり、そもそも内部データベースに誤りがあることも少なくない。こうした状況では、「データドリブンな政策分析」とは言いがたい。
個人主義が強い
日本の職場との大きな違いは、個人の独立性が強いこと。自分の裁量で仕事を進められるため、ワークライフバランスを保ちやすい反面、すべての責任を自分一人で負う必要がある。
また、日本のように職場全体で職員を育てるOJT(On the Job Training)のような風習はなく、自分の責任でスキルアップをしなければならない。誰かが指導してくれるわけではないので、自ら聞きに行く積極性が求められる。
自己責任に基づく「大人な」職場とも言えるし、組織力が弱いとも言える。情報交換は個人の人的ネットワークやコミュニケーション能力に依存するので、組織全体として情報共有が不十分で、仕事の重複が発生しやすいという弱点がある。
無期契約を勝ち取れば待遇は良い
若手職員は有期契約でコロコロと変わるが、管理職ポストは無期契約となっているので、管理職ポストにハマればその職位に安住することができてしまう。一度そのポストを得ると、手厚い待遇(非課税給与や充実した年金制度)を享受できるため、管理職がなかなか交代しない。日本の頻繁に変わる人事ローテーションも問題だと感じていたけど、ここまで硬直的な人事もまた問題だ。
こうした弊害に、上層部に気に入られなければずっと昇進の機会を得られないことが挙げられる。日本のように淡々と良い仕事をしていれば昇進できる環境とは異なり、上司との関係構築がより一層重要だと痛感している。
まとめ:確認したいポイント
これまでの経験を踏まえて、国際機関への就職を検討する際は、以下に気をつける必要があると思う。
興味がある部署の資金源を確認する。外部資金に依存している場合は、委託先の興味関心に沿った仕事が多くなる可能性が高い。
上層部はなかなか変わらないので、興味ある部署の上層部のスキルや人柄をしっかりと確認しよう。