温故知新
2025年の最初の投稿は、「温故知新」なワインについて書くことから始めたい。
ここ数年、国内の好事家たちの間でカリフォルニア・ワインへの関心が高まってきているように思う。ブルゴーニュを始めとする高級ワインの価格急騰や、温暖化による産地への影響等、好事家が目移りする理由は様々だろう。
しかし、かつてのブームと比べると、近年の関心の高まりは「カリフォルニア・ワインに魅せられる人が増えている」という点が異なるように思う。
これまでは、ブルゴーニュやボルドーの銘醸ワインの代替品を探そうと、カリフォルニアに期待する人は少なくなかった(そして、多くの人が勝手に失望していった)。
しかし、ここ十数年程で、より洗練されたスタイルのワインが増えた結果、先入観を排して飲めば、カリフォルニア・ワインには独自の個性があり、その品質も第一等の伝統産地に劣らないと認める人が増えてきているように思う。
ただ、その「先入観」を覆すことは容易なことではない。
伝統産地のワインを好む人々は、その味わいだけではなく、それを支える栽培や醸造の方法論とその発展の歴史、さらには格付けや序列も含めた制度全体に対する理解がある。
それに対して、カリフォルニアは自由市場を地で行く新興産地だ。生産者はおろか畑の格付けすら定まっていない上に、その序列は年ごとに変動する。さらに、トレンドや消費者の動向に合わせて、躊躇いなく品種の変更や植え替えを行うかと思えば、樹齢100年超の古木を持つ畑を保護しつつ古典的な品種のワインを生産したりもする。何より、日進月歩の業界であり変化のスピードが早い。
革新と多様性のカリフォルニアを理解する上で、伝統産地の知識は助けにならないことも多い。それだけに、とっつきにくい産地に思えるのだろう。
そんなカリフォルニア・ワインを理解しようとする際に、伝統産地のワインを愛する人達がよく用いる方法は、「評価が安定した大御所の生産者が作る国際品種のワインを吟味する」というものだ。
往年のカリフォルニア・ワインのファンから見れば、随分と古式ゆかしいワインを飲むものだと言いたくなるが、移り変わりの激しいトレンドよりも歴史と伝統に敬意を払う好事家にとっては、そのあたりが折り合いなのだろう。
Kistler Vineyardsは、大御所の中でも最も名前が挙がる生産者であり、カリフォルニアのピノ・ノワールとシャルドネの地位向上に最も貢献した生産者だ。Opus Oneが(言い方は悪いが)世俗的な名声を博していた傍ら、Kistlerは好事家の支持という実を取ってきた。なお、Steve Kistler氏とMark Bixler氏によるワイナリー設立の経緯については以下に詳しいため、ここでは繰り返さない。
そんなKistler Vineyardsだが、近年、評論誌で再評価の機運が高まっている。一時、創設者のMark Bixler氏の死去やSteve Kistler氏の退任、さらにピノ・ノワールの畑がOccidental winesに引き継がれたこともあり、Kistlerブランドも形骸化するかと思われた。しかし、Steve氏からの薫陶を受け、後にワイナリーをも引き継ぐことになったJason Kesner氏の手腕により、今、Kistlerはカリフォルニアで最も優れたブルゴーニュ品種の生産者として、再び脚光を浴びるに至っている。
Kistlerは実に様々な畑からシャルドネをリリースしている。Durrell, Dutton, Hyde, Hudsonといった銘醸畑の他、McCrea, Kistler, Laguna Ridge, Stone Flat, Trenton Roadhouse, Vine Hillに加え、Kistler Vineyardの中の特別な区画の果実から作られるCuvee Cathleenがある。今後はStock Ranchというシャルドネもリリースされるという。
最近、偶然、年末の忘年会の流れでたどり着いた京都のワインバーでKistler vineyardのシャルドネを飲む機会があった。
レモン、グレープフルーツ、洋梨、白桃を中心とした華やかな香り。樽の効かせ方に品がある。美しい酸と舌の上に広がる旨味。中盤からフィニッシュにかけて、綺麗で奥行きのある味わいが長く続く。Aubertほど樽や果実味が前面に出ないが、かといってCeritasほど抑制されている訳でもない。中庸の美を体現したような王道のシャルドネだ。
かつてのKistlerも洗練された味わいではあったものの、もう少し果実味に軸足を置いていたように思う。ただ今日では、より高みを目指して成長を続けた結果、伝統産地の一級のシャルドネと遜色ないワインを作るに至っている。かつてのカリフォルニア・ワインの味わいを土台に、より高次の表現を可能にしたと言って良い。
Kistlerは優れた生産者だが、Kistlerだけが優れた生産者ではない。カリフォルニアには、様々なスタイルや品種のワインを手がける能力のある生産者が、多々、存在する。Kistlerは好奇心の扉を開くにはうってつけのワインだが、好事家であればその先に分け入っていくことの方が、余程、心踊る経験だろう。
このnoteの記事が、カリフォルニア・ワインに関心のある人達の好奇心を、ほんの少しでも刺激できれば良いと思っている。
読者の皆様、本年もどうぞ宜しくお願い致します。
本日のワイン:
Kister Vineyards Kistler Vineyard Charodonnay 2019
95pts
https://www.kistlervineyards.com