「正しい」ワイン
また猛烈な夏の暑さがやってくるこの時期は、白ワインが飲みたくなる。とはいえ、それで素直にシャルドネを開けてしまうようなら、セラーにワインを溜め込んだりはしない。
この日は誘惑に負けてピノ・ノワールを開けることにした。
SandlerはEd Kurtzman氏のプライベート・ブランド。同氏はカリフォルニア・ワイン好きの間ではちょっとした有名生産者で、ピノ・ノワールの作り手として一世を風靡した。
赤スグリ、ブラックチェリー、カシス、オリーブ、甘草、レザー、ダークチョコレートの香り。酸は穏やか。ふくよかな果実味。若いがタンニンは溶け込んでいる。若干、スパイシー。アフターは豪華。時間が経つにつれて、徐々にまとまりが出てきた。
ピノ・ノワールは、ブルゴーニュのファンが多いためか、あるべき味わいやバランスが厳しく問われる。正解は一つではないが、味わいの是非を巡って今も熱い議論が交わされている。
かつて、カリフォルニアのピノ・ノワールは、国内外の専門家やソムリエ達からの強い批判にさらされたことがある。大柄で、酸よりも果実味が目立つ、まるでシラーのようなワインだと。
そうした声に対する反動もあってか、近年のカリフォルニアでは、抑制的でアルコール度数の低い、洗練されたピノ・ノワールが随分と増えてきた。
結果として、多様な味わいのワインが作られるようになり、かつてのような批判は聞かれなくなったものの、今にして思えば、あの批判に何の意味があったのか考えてしまう。
ブルゴーニュの個性は、ブルゴーニュにしか表現できない。ブルゴーニュのようなカリフォルニア・ワインを作ろうとすることは、果たして「正しい」事だったんだろうか。
Sandlerのピノ・ノワールは、バロック音楽のように端正なワインではないけれど、真に迫るソウルミュージックの歌声のように、大らかな明るさに満ちた味わいで飲み手を魅力してくれる。
少なくとも、晩酌を楽しんでいる間は、「何が正しいピノ・ノワールの味わいであるべきか」などと言うことは忘れてしまう。そんなことよりも、グラスの中身を楽しむことの方が価値があるのだから。
今日のワイン:
Sandler Santa Lucia Highlands Cortada Alta Vineyard pinot noir 2022
92pts
https://m.sandlerwine.com