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2024年、今年のワイン

noteを始めてはや半年。これまでは、毎週違う生産者を取り上げることにしてきたが、一年の締めくくりは、今年最も印象に残ったワインについて書くことにした。

案外、一年間に飲むワインは多いもので、確認したところ、バーや持ち寄り会で飲んだものも合わせると6-70種類はあった。

当初、そんな中から「今年の一本」を選ぶのは難しいかと思ったが、内心、調べる前から今年のワインはKinsman Eadesに決まっていたように思う。

Kinsman Eadesは、今、Napaで最も騒がれる、いわゆる、'live up to the hype'な生産者だ。Diamond Mountain, Oakville, Howell Mountain, Rutherford, St. HelenaといったNapaの心臓部にあたるAVAの最上の畑から得た果実を使って、個性と表現力のあるカベルネ・ソーヴィニヨンをリリースしている他、シラー、シュナン・ブラン、ソーヴィニヨン・ブランも手掛けている。

ワインメーカーのNigel Kinsman氏は、介入を最低限に抑えたアプローチを心がけているようで、いわゆるBig & Boldな高級カベルネ群とは志向が異なる。かと言って、Opus OneのようにBordeauxを強く意識している訳でもなく、あくまでカリフォルニアの個性を、より大きなスケールで、しかもディテールを追求しながら表現しようとしている。ここのところ、Bella Oaks, Bergman, Annuls, Impensata, Accendoといった、いずれもNapaでトップレベルのワイナリーを任されており、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いと言ったところだ。

そんなKinsman Eadesから、昨年、新しいカベルネ・ソーヴィニヨンが3種類もリリースされた。Käännös、Kodo、Aphexと名付けられたキュヴェは、前者2つがOakville、後者がHowell mountainの銘醸畑からの果実で作られているという。

中でも、Käännösは好事家の中でも注目を集めていた。Napaでも有数のワイナリーであるVine Hill Ranchの畑の果実使って、今をときめくNigel Kinsman氏が作るワインに心躍らないNapaファンはいないだろう。さらに、公式発表はないが、恐らくその果実は、Napaで最も高級なワイナリーの一つである「かのワイナリー」が使用していた区画のものではないかと、筆者は疑っている。

なお、新しい畑を手掛ける場合には、いかに有能なワインメーカーや栽培家であっても、適応に時間がかかるという懸念があるかもしれないが、今回はそうした心配もない。というのは、Nigel Kinsman氏は、VHRのワインメーカーであるFrancois Peschon氏と長年共に働いてきており、Vine Hill Ranchの畑とは十数年の付き合いだという。

さらに、今回のワインは2021年ビンテージだ。2021年は、恐らくカリフォルニア・ワインにとって歴史的なビンテージになるだろう(天候だけの問題ではないが)。筆者の印象で言えば、2021年のカリフォルニア・ワインは酸が乗って美しいワインが多いと思う。これにNapaの力強さに洗練が加わると思うと、飲む前から楽しみでならなかった。

抜栓直後にも関わらず、グラスから飛び出すほどのカシス、赤スグリ、野苺、ブラックチェリー、ブルーベリー、プラム、イチジク、甘草、コーヒー、グラファイトの強烈な香り。 口に含んだ瞬間に、目の覚めるような味わい。飲み口は瑞々しくピュアで、分厚さや野暮ったさも、アルコールの熱も全く感じない。中盤からフィニッシュにかけてのダイナミックな味わいに、ワインのスケールを感じる。

Käännösは、Rhadamanthusのように骨格と密度を感じるワインと言うよりは、大らかで陽性の個性を持つワインではあるが、美しく洗練されている。さながら、最上級のカシミア・コートにテンガロン・ハットを合わせるかのような。まだ若いため、若干のタンニンと仄かな新樽の香りが感じられたが、これは数日かけて飲み続けていく内に目立たなくなり、5日目には、円やかでこっくりとした旨味の塊になっていた。

無二のワインと言って良い。

実は、このワインを飲んだ後に、本家のVine Hill Ranchのカベルネ・ソーヴィニヨンを飲む機会があった。優れたビンテージではあったが、Käännösに比べると一段落ちるように感じた。もっとも、いずれのワインも素晴らしかったので、その差が重要であるかは別の問題だが。

今年も印象に残る、ワインの澱が記憶に貯まるかのような経験を与えてくれるワインに出会う機会が多い一年だった。皆様も良いお年を。


2024 Wine of the Year:
Kinsman Eades Käännös 2021
98+pts
https://www.kinsmaneades.com

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