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「すれ違い」という縁

今年は映画が豊作の年だったが、見た中では「Past Lives」が印象に残っている。

「子供の時に想っていた相手と、偶然、大人になって再会したら・・・」というあらすじの本作では、想い合っているのに生きる道が分かれていく二人の揺れる感情が上手く描かれていた。結局、互いが「ねじれの位置」に立っていたことで、二人の歩みが重なったように見えただけという結末も、リアルで共感できた。

名作映画ほどドラマがある訳ではないが、以前、ある生産者のワインとのすれ違いを経験したことがある。

2015年、In Pursuit of Balance (IPOB)に参加する気鋭の生産者達が来日したことがある。Cobb, Domaine de la Cote, Hirsch等、華やかな名前がずらりと並んでおり、ファンにとっては一大イベントだった。

個人的に参加を決めた理由は、そのリストの中にCeritasの名前があったからだ。

CeritasはJohn Raytek氏のプロジェクトで、主にブルゴーニュ品種を対象に、Sonoma coastの個性をあますことなく表現できるワイン造りを目指している。ただ実際は、Santa Cruz Mountainsの果実も使う等、眼鏡に適う畑があれば作ることに躊躇いはないらしい。

CeritasはIPOBの中でも目立たない存在で、当時、国内輸入はあったが売れている様子はなかった。ただ、情報が少ないことでかえって惹かれるところがある生産者で、いつか飲んでみたいと思っていた矢先に来日が実現したのだった。

イベント当日は、会場の熱気にあてられたせいか、早々に酔いが回ってしまった。気になる生産者のワインは既に大方試飲していたのだが、Ceirtasのブースだけが見つからない。

今にして思えば、早々にワインが無くなったのでブースを片付けてしまったのかもしれない。結局、目当てのワインと出会うことができず、心残りを抱えたまま帰途に着くことになった。

その後、自分なりにピノ・ノワールの経験値を上げていくうちに「やはりCeritasを飲みたい!」と思い、個人輸入をすることにした。評論誌の評価が高かったこともあるが、以前の心残りがずっと尾を引いていたのだ。

初めて飲んだCeritasは、Hacienda Secoya vineyardだったと思うが、良く分からなかった。期待した味と違ったとか、自分の好みではなかったとかではなく、「掴みきれない」という感じだった。

「分からないから、もう辞めよう」よりも「分からないから、もう一度試してみよう」と思ってしまうのが好事家の性だが、この時の判断は正しかったと思う。

Ceritasにはフラッグシップにあたるワインは無いが、それに相当するのはOccidental vineyard pinot noirだろう。数年前、CeritasはOccidental winesが所有するCatherine vineyardから果実を調達する長期リース契約を結ぶことに成功した。リリース・レターの行間からも、カリフォルニアを代表する銘醸畑に携わることができる興奮が伝わって来るほどだった。

クランベリー、野苺、ブラックチェリー、ハーブ、レザー、浅煎りコーヒー。華やかで瑞々しい呑み口。ミッドパレットも充実している。果実味のコアがしっかりしているものの、作りは抑制的。美しいアフターが長く続く。若干、抽出が強い点は好みが分かれるところだが、格を感じるピノ・ノワールだ。

残念ながら契約上のトラブルによりCeritasとOccidental winesの関係は終わりを迎えたそうで、次のビンテージが最後になるそうだ。将来、両者は「あの時は、互いがねじれの位置に立っていただけ」と思うのかもしれない。

自分としては、IPOBでのすれ違いから始まった縁に感謝しつつ、最後のビンテージは多めに買っておこうと、今から考えている。

本日のワイン:
Ceritas Occidental vineyard Sonoma coast Pinot noir 2019
95+pts
https://www.ceritaswines.com

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