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【名盤伝説】“George Harrison / All Things Must Pass”

1969年1月、ビートルズは分裂解散の危機を乗り越えようとGet Back (原点回帰)セッションが始まります。新曲のベーシック・トラック制作のためのセッションが行われ、その模様は映画「Let it Be」や「Get Back」として公開され、私達も眼にすることができます。

The Complete BEATLES Recording Session」という350頁を超える書籍があります。そこには1962年から70年までのビートルズのレコーディングの全記録(ということになってます)が記載されています。

1969年の記録を丹念に追っていくと『アビー・ロード』や『レット・イット・ビー』収録曲、さらに当時のシングル曲以外に「あれ??」という仮タイトルが出てきます。特に1月末の伝説のルーフ・トップ・パフォーマンスを終えた2/25の記事には、「All Things Must Pass」(take-1,2)の記載があります。同時に「Old Brown Shoe」(take-1,2)、「Something」(take-1)も。この日は一人でスタジオに赴いたジョージ・ハリスンが、それぞれのデモ・トラックを収録しています。そして同じページの記事にはホワイト・アルバム収録時には「While My Guitar…」と同時に「Isn’t It A Pitty」のデモも録音したとも。

このセッションを終えて事実上分裂したビートルズが、やっはりこれではダメだと一念発起してアルバム『アビー・ロード』を制作していったのですが、実はその過程で各人ともアルバムに収録するかどうかは別として新曲作りは今までのセッション同様に進めていたのですね。

ここで一つの疑問が晴れます。ジョージはどうやって解散から僅か数ヶ月間(1970年11月)でLP3枚組(実質2枚)という大量の音源を携えてソロ・アルバムをリリースすることが出来たのか。ビートルズ時代からのストックがそれなりにあって、それらをカタチにしてアルバムに収めたという訳ですね。

先の2/25でtake-1を収録していた3曲は、それぞれビートルズのシングル盤、ラストアルバムの2曲目、そしてソロ・アルバムのタイトル曲と三者三様のカタチとなってリリースされていくことになりました。

この書籍では、70年の4/2のプロデューサーフィル・スペクターによる「アイ・ミー・マイン」の最終エディット、5/8のアルバム『レット・イット・ビー』リリースとの記事で記録は終わっています。


ソロ・アルバムの本格的な制作活動は、この『レット・イット・ビー』リリース直後から始まります。映画「ゲット・バック」でも紹介されていましたが、ジョージが一時期ビートルズから離れていた時に作ったとされる「ワー・ワー」や、ボブ・ディランとの交流の中かから生まれた「アイド・ハヴ・ユー・エニータイム」などのナンバーが次々とカタチになっていきます。

そしてこのソロ・アルバムのプロデューサーをビートルズ時代から手がけていたフィル・スペクターにしたのも、過去のストックを活かすのに好都合だったというのは想像に難くありません。

様々な経緯がありながらも先頭を切ってビートルズ解散後のソロ・ワークとして本格的なアルバムをリリースしたジョージ(ポールが解散宣言直後にアルバムをリリースしていますが、ほとんどがデモ音源ということで、ジョージを初と個人的には認定したいと思います)。大作でありながらも評判は上々で、USチャート1位、UKチャートももちろん1位、日本でも4位を獲得するなど大ヒットとなりました。

参加したミュージシャンはリンゴ・スター(Drs)をはじめとして、盟友エリック・クラプトン(G)やクラプトン人脈からカール・レイドル(Bs)、ジム・ゴードン(Drs)、ボビー・ウィット・ロック(Key)、ボビー・キーズ(sax)。ギタリスト仲間のデイヴ・メイソン(G)。レット・イット・ビー・セッションからのビリー・プレストン(Key)。アップル・レコード期待の新人バッド・フィンガーの面々など。他にはゲイリー・ライト(Key)やアラン・ホワイト(Drs)などの名前もクレジットされているあたりが興味深いところでしょうか。

収録曲
LP-1
A1 I'd Have You Anytime
A2 My Sweet Lord
A3 Wah-Wah
A4 Isn't It A Pity (Version One)
B1 What Is Life
B2 If Not For You
B3 Behind That Locked Door
B4 Let It Down
B5 Run Of The Mill

LP-2
C1 Beware Of Darkness
C2 Apple Scruffs
C3 Ballad Of Sir Frankie Crisp (Let It Roll)
C4 Awaiting On You All
C5 All Things Must Pass
D1 I Dig Love
D2 Art Of Dying
D3 Isn't It A Pity (Version Two)
D4 Hear Me Lord

LP-3 Apple Jam
E1 Out Of The Blue
E2 It's Johnny's Birthday
E3 Plug Me In
F1 I Remember Jeep
F2 Thanks For The Pepperoni

アルバムトップのA1はボブ・ディランとの共作。ビートルズ解散後のジョージの初ソロがどんなオープニングかと期待に膨らませた中で、意外な程の静かな曲から始まります。しかしジョージらしい控えめで、とはいえ心に届けと言わんばかりの思いに満ちた熱いラブソング。これだけで涙したファンも多かったと思います。


ビートルズ在籍時の蔵出しA4。別バージョンも収録されていますが、こちらの方が曲としての完成度は高いような気がします。


B4はド派手で大袈裟なイントロで、一体何が始まるのかと思いきや一転静かな曲調に・・・メロディ・ラインやコード進行は、以降ソロになったジョージお得意の節回しで、かなり独特な世界感を聴かせてくれます。


アルバムタイトルとなったC5はアルバムのハイライト曲と言えるでしょう。「過去は振り返らない、新たな日を迎えるために歩き続けるよ」と静かな歌い上げるジョージ。この曲も蔵出し曲ですが、ビートルズ在籍時にこんな曲を入れようとしたら「お前だけ何を考えているんだ」と当然却下されたでしょうね。「All Things Must Pass」って「諸行無常」ですから、ビートルズの栄光にいつまでもすがっていたらダメだと諌めているというは日本人ならではの深読みですねw。


このアルバムからシングルカットした「My Sweet Lors」と「What Is Life」についてはこちらで記事にしています。

LP-3のジャムセッションについてのコメントは割愛します。


ジョージはこのアルバムをリリースした後に、チャリティ・コンサート開催に向けた準備に邁進していきます。そのコンサートのライブ盤もリリースされて大きな話題になりました。それについても追って記事にしたいと思っています。


ビートルズ関係の記事をこちらでまとめていますので、どうぞご覧ください。




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