リスクを負ってでも人を楽しませることが美学な人
新日本プロレスのG1 CLIMAX 31の決勝戦が先週木曜に終わった。
飯伏幸太選手とオカダ・カズチカ選手による決勝戦は飯伏選手のケガによるレフェリーストップ、要は試合続行不能で決着がついた。
私はこの日会場で観戦していた。
しかも運良く最前列のチケットが当たり、それはそれは近くで観ていた。
飯伏選手が動かなくなり、医師やトレーナーが集まり、痙攣し始め、途中痛さで叫び声をあげているのを至近距離で観ていたので、正直怖かった。あまりの怖さに涙が出て来たぐらいだ。
飯伏選手が動かなくなり、レフェリーが飯伏選手に声をかけている。恐らくオカダ選手も様子のおかしさに気づいたのか、そのまま様子を見ている。
そのうちレフェリーがリングアナウンサーに試合終了のゴングを指示する。
会場から「えっ...」と声が漏れる中、それでも飯伏選手は不自然な体制のまま動かない。
リングドクターやトレーナーが集まり始め、リング上があわただしくなる。それでも飯伏選手は同じ姿勢のまま動かない。いや、動けなかった。
どうやら肩を脱臼していたようで、トレーナーが一生懸命肩を入れていた。
相当な激痛だったのであろう、飯伏選手は痛みから試合中とは違う叫び声をあげていた。恐らく痙攣も極限の痛みからだったのかもしれない。
動けないからリング上で整復処置をせざるを得ないぐらい
あの飯伏選手が痛みで叫び声をあげるぐらい
それぐらい飯伏選手は大きなダメージを受けていた。
飯伏選手がケガをしたきっかけは、オカダ選手に対してコーナーからフェニックススプラッシュ(コーナーに立ち、リングを背にして横に180度、縦に450度回転して相手をプレスする技)を繰り出した際に、オカダ選手がそれを避けたことで飯伏選手が自爆した(自分の体をマットに打ち付けてしまった)ことによるケガである。
飯伏選手はこれまでにも何度も、このフェニックススプラッシュを自爆しているので、別に初めての自爆ではない。
でも今回はその自爆で大ダメージを受けた。
G1の激しい闘いの連続で、体にダメージや疲労が蓄積し、体の感覚が違っていたのかもしれない。もしくは飛ぶ瞬間のちょっとしたズレがあったのかもしれない、数日前に痛めた肘や膝の影響が出たのかもしれない。
何が原因かは本人しかわからない。
いや、もしかしたら本人もわからないかもしれない。
ただひとつ
飯伏選手は観客を楽しませるためにこの大技を出したのだと思う。
飯伏選手がこのフェニックススプラッシュを出したのは実に久しぶりだ。
一時期封印していたが、ある時に解禁してきた。但し、大舞台の中でのここ一番の時だけ出していた。
この日もその前に、飯伏選手の得意技のキックと膝蹴り、必殺技のカミゴェ、ラリアットが決まった大チャンスの時に繰り出された。
3連覇がかかったG1決勝。
プロレスはもう出来なくなるかもと思わされた誤嚥性肺炎から復活した証のG1。
もちろん勝ちにいくためにこの技を出したと思う。
待ってくれていたファンへのお返しとも考えていたかもしれない。
とにかく観ている人に楽しんで貰いたい。
それが飯伏選手の中でいつも一番である。
以下は決勝前日のツイート。
ファンが喜ぶ試合をする。その為には自身の危険も省みない。
飯伏選手の昔からの闘い方だ。
その危険技を出すことに対して巷では賛否両論ある。
私は賛も否も無い。
だってこの世界はプロレスの世界だから。
危険だなんてレスラー本人が一番わかってる。そもそもプロレスの大前提は"危険な競技"である。
それを理解した上でレスラーはプロレスをやっている。プロレスをやったこともない一般人がそれに対してとやかく物申せるものではないと思う。
心配はする。そりゃする。めちゃめちゃする。
でもその選手の考えを尊重して、選手を信じて応援する。それがファンなのではないかと思う。
心配が度を超えて「危険なプロレスは辞めるべきだ」と批判するのは違うと思う。
そのプロレスの世界にいる飯伏選手は、自分へのリスクの高い空中技が多い。しかも空中技の中でも更に危険度が高いものをよく使う。
空中技は他の技と違って、出した本人へのダメージももれなく付いてくる。今回のように自爆すれば相手へのダメージはゼロで自分へのダメージだけである。
じゃあなぜそんなリスクの高い空中技を使うか。
それは"華やかさ"を持っているから。
観ている人を魅了させる技だから。
リスクも持ったままで華やかさを取る。
それがプロレスの美学と考えているのが飯伏選手なのだと思う。
飯伏選手の昔のグッズで日めくりカレンダーがある。飯伏選手の写真と言葉が日々載っているものだが、その中の1枚で飯伏選手はこう語っている。
リスクを背負ってでも、その壁を超える
最も影響を受けたレスラーの一人がグレートサスケさん。多分恐怖(リスク)を感じながら飛んだりしていたはず。けど、そのリスクを負ってでも飛び続けたサスケさんの姿に自分は、感動や興奮を覚え、壁を超えるにはリスクを負うことの必要性を感じた。
だから、今、自分を見てくれている人たちにも、壁を超える時には、そこにあるリスクを恐れず、チャレンジして欲しい。
自分も怖いけど、引退するまで飛び続けるから。
飯伏選手だって恐怖心がある。これまでにもそれで怪我をしてきているなら、トラウマになっているものだってあるかもしれない。
飛ばなくたって他にも使える技は沢山ある。
それでも飯伏選手は飛ぶ
それはファンを楽しませるため。
ファンにそれを観て元気になってもらうため。
かつての自分が楽しんで元気を貰った記憶があるから。ファンにも同じ思いをして欲しい。
それがリスクを負える原動力なのだと思う。
飯伏選手を応援しているから怪我はして欲しくはない。毎回危険過ぎて心配である。
でもそんな気持ちを持ち続けながら、飯伏選手を、飯伏選手のプロレスを応援し続けていきたいと今回あらためて思った。
飯伏選手はきっと、ファンに心配されることよりも、ファンが喜んで楽しんでくれる事を願っているレスラーだから。