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飲み会で誰かが説教されているのを見るのがとにかく嫌だ。
嫌じゃ嫌じゃ。飲み会で誰かが説教されているのを見るのがとにかく嫌じゃ。
説教したい人の声は物理的に大きいし、されている人も「へぇへぇ」とぺこぺこしないといけない。せめて説教する側がひそひそと囁き、される側が一言大声で「へい、すいやせん!」と話してくれたらすぐ終わりそうだけど、そういった場面には一度も遭遇していない。
あいだを取り持とうとしても、言う人は本当に怒っている訳ではなくて、ただ誰かになにか言いたいだけなので、下手な止め方をすると全員にもやもやだけが残る。
職場なら(全然良くはないけど)まだ良い、でも同窓会のような場所で始まると、なんだかなぁと思う。被告となるのは決まって自由業の誰かで、経営者ではなく雇われ社員として功績を上げている人がどうしても説教したいらしく、なし崩し的にいつの間にかその時間が始まる。
それで、自由に見える誰かが実はまぁまぁ成功しているのが途中でわかると、まぁな、と何故か認める流れになる。私は「好きなことをして自分に必要なだけのお金を稼いでる人が奇妙な裁判に巻き込まれ、しかも何故か上から認められる」構図が苦手なのだけれど、自由業の人たちはそこについて怒らないのでうっとりする。すごいなぁと思う。慣れてるとしてもすごい。
でもとにかく声が大きい人は何か粗を作り出してでも浸りたいらしく、今度は「お前は自由業で良いかもしれないけど結婚したらどうするの?」とわけのわからない未来への攻撃を始める。
せっかく楽しく集まった場所でさえ誰かを打ち負かさないと気がすまないくらいストレスが溜まっているんだろうなぁ。不当な当てつけをしてもいいと勘違いするほど頑張っている事自体は、普通に尊敬する。でもそれに巻き込まれるのは嫌じゃ。
ーーそうして私は、飲み会がほとほと嫌になった。次、仕事であれプライベートであれ何か嫌な予感がする飲み会に誘われたら欠席してサイパンに行こうと思った。そして本当にそうした。
とある、誰かの説教が確定している飲み会の開催を告げられた時、(会社の行事としての大きな会だったので)3週間ほどの猶予があることも同時に知った。ここだ、と思った。だから有給を取り、かねてから行きたいと思っていた奄美大島に行くことにした。サイパンは流石にお高かったのだ。
飛行機にびょいと乗りついた現地は、本州とは全く違っていた。植物も亜熱帯のような力強いものばかりで、マングローブに似たアダンの木がそこここに生えていた。海は透き通っていて、透き通ってはいない、なんてことのない防波堤にも普通にウミガメがいた。
地球は丸いんだなぁと体感できる、パノラマのような海岸線でぼぅっとして、現地の、人懐っこいけどプライベートスペースは絶対に守ってくれる、観光者慣れしている人たちと楽しく話した。お酒も少しだけ飲んだ。飲み会に行かなくて本当に良かったとおなかの底から思った。
夜は珊瑚の多い海岸で、好きな人と星を見ながらまたぼうっとした。今ごろ会社の飲み会では、全体の集まりに来なかった私の欠席裁判が始まっているのだろう。全然どうでもいい、そう思った。砂浜に仰向けになって、海の風と満天の星空と好きな音楽に囲まれて過ごし、ゲストルームに戻った。月が綺麗だった。