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自分と誰かの命を守るための習慣

 今年、三月。私は農業用ドローンの講習に参加した。

 私は福井県で農業をしている。家業が農業だったので、小さなころから土を触り、虫を触り、葉っぱを触って生きてきた。そんな二十代後半の私でも最近の農業は変わったなと感じる。スマート農業と呼ばれる物だ。これまでたくさんの時間と労力を費やしていた作業を、AI搭載の機械にやってもらうというのが主な動きだろう。実際、私の職場でも、自動運転の田植え機が導入された。

 前置きはこのくらいにして、先日、総額二百万越えのドローンがやって来た。これは今年の三月、ドローン講習で試験に合格し、導入が決まったからだ。重量二十キロ以上のドローンを空に飛ばすなんて、私にはできないと最初は思っていた。でも、試験に合格した自分なら何の問題も無い。近所のおじいちゃんやおばあちゃんの田んぼの農薬散布も請け負って大儲けだ。

 実際は、そうは思っていない。思えない。

 講習では、航空法や農薬取締法を覚えた。
 日本では、二十五メートルプールの水に小さじ一杯の農薬が検出されたらアウトだそうだ。もしそれが検出された場合、それは自分の作物だけではなく周りの農家、市内の農家、県内の農家へと被害が広がっていく。実際に、東日本大震災で影響を受けた漁業や農業従事者は記憶に新しい。

 さらに航空法も厳しくなっている。ドローンが出始めた頃、ルールを破ったり、守るふりをして事故を起こしたりするせいで、現在の規制は厳しく、また面倒になってきている。これからも減ることは無く、規制は増えていくだろう。DID地区と呼ばれる人口密集地や、上空百五十メートル以上の飛禁止区域などを講習で叩き込まれた。

 また事故例も教えられた。そのほとんどは防げた事故だと言う。慣れや焦り。日々の点検と確認不足。講習で習ったことを実行しなかった故に起こったものだ。
 私の近所でも、ドローンを飛ばしている先輩方を多く見かける。その中で、ちゃんと講習通りに作業しているのは一組しか見られなかった。ヘルメットをしていない。ナビゲーターを置かない。安全確認をしていない。機体のメンテナンスをしていない。そもそも、一人で飛ばしている人さえいたのだ。
 そんな事では、事故を起こすのは時間の問題だろうと、私は思う。高価な保険に入ってはいるが、失ったものは帰ってこないのだ。


 私も今年五月から、実際にドローンでの除草剤散布を実施している。オペレーターが私。ナビゲーターが一人と、補助者が一人というパーティーで行っている。
 飛ばす前には、周辺と上空の指さし確認。風速も確認し、車や人の状況を確認。機体には、赤、黄、青に光るインジケーターがあるので、そこも指さし確認だ。プロポ(コントローラー)の画面上には機体やGPS情報。薬剤情報。バッテリー情報など、様々な数値が表示されている。警告は必ず赤い文字で表示されるのできちんと確認が必要だ。

 これだけしていても、私も人間。ミスがあった。
 一つ目は、薬剤タンクの蓋が閉め忘れていた事だ。無事に着陸した後、バッテリーを交換し薬剤を入れる。この時に閉め忘れてしまっていたのだ。これは、離陸してから気付いた。何かのはずみで蓋が動き、プロペラに当たってしまっていたらと思うとぞっとする。
 二つ目に、アームロックの閉め忘れだ。
 薬剤を入れ、バッテリーを乗せた。ナビゲーターが田んぼのあちら側に行ったことを確認し、イヤホンからOKの合図が聞こえた。さぁ飛ばすぞという時プロポの画面に赤文字があった。アーム3を確認。機体を確認しに行くとプロペラがついている四本のアームの内、一本のロックが掛かっていなかった。もしも確認せず飛ばしていたら確実に墜落していただろう。自分に向かってくるならまだいいが、たまたま歩いていた子どもなんかに当たってみろ。私はこの世に顔向けできなくなる。
 ただでさえ、ドローンで仕事をしていると野次馬が寄って来る。集中しているのに、話しかけてくる方も居る。絶対に大丈夫なんてことは絶対にないのだ。


 私は改めて思う。便利な物だが、命を奪いかねない代物を手にしてしまったのだと。それなのに、私に出来る事は少ない。安全の基礎をしっかり守り、初心を忘れない事だ。
 そのために、日々の点検や、指さし確認、ナビゲーターとのコミュニケーションをサボることなく習慣化し、異変にいち早く気付くよう心掛けたい。
 そして、皆様に美味しい米をお届けできるよう最善を尽くそうと思う。

#日々の大切な習慣

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