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長篇小説

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「コーベ・イン・ブルー」(全7話)神戸港を舞台にしたクォーターの青年の愛と葛藤の物語。船会社の代理店から委託業務を引き受ける主人公が警察から殺人を疑われる過程で、ヤクザと渡し合い…
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#狂気

【小説】コーベ・イン・ブルー No.5

    9  冬の雨が軒先の路地を濡らす。閑古鳥の鳴くのカウンターの内と外。ノルマをこなせない営業マンの気分。マントバーニのムード・ミュージックが狭い店内に静かに流れる。 「こないだ手相、観てもろてン」 「何ンの寝言や」  英美子と海人は馴れ合い話にふける。 「タマシイが若い! 言うてもろてン」 「脳ミソの聞き間違いやろ」  紺地に波しぶきを散らした着物姿の英美子は、とろけるような顔でグラスを重ねる。 「五十過ぎても、ふたりは狂うてくれる、言わはってン」 「借金とりがか?」