【小説】コーベ・イン・ブルー No.5
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冬の雨が軒先の路地を濡らす。閑古鳥の鳴くのカウンターの内と外。ノルマをこなせない営業マンの気分。マントバーニのムード・ミュージックが狭い店内に静かに流れる。
「こないだ手相、観てもろてン」
「何ンの寝言や」
英美子と海人は馴れ合い話にふける。
「タマシイが若い! 言うてもろてン」
「脳ミソの聞き間違いやろ」
紺地に波しぶきを散らした着物姿の英美子は、とろけるような顔でグラスを重ねる。
「五十過ぎても、ふたりは狂うてくれる、言わはってン」
「借金とりがか?」