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長篇小説

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「コーベ・イン・ブルー」(全7話)神戸港を舞台にしたクォーターの青年の愛と葛藤の物語。船会社の代理店から委託業務を引き受ける主人公が警察から殺人を疑われる過程で、ヤクザと渡し合い…
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2024年2月の記事一覧

南ユダ王国の滅亡(7/9)

あらすじ ダニエルとアリスとは、王の面前で対決し、アリスは敗れるが、彼女の連れている黒猫が助ける。ルーシーはアリスが魔女に取り付かれていると言い、悪魔祓いの儀式を行う。ミカエルと同じ捨て子だったアリスは、リストカットのあとが手首にあった。一方、ダニエルにつき従う少年らは、自分の身を顧みずダニエルにつくす。    18 フォールスメモリー  宿屋に戻ると、ルーシーが盛大に尻尾をふって出迎えてくれた。首をのばして待ちわびていたという。疲労の極致にあったわたしは、ろくに返事も

南ユダ王国の滅亡(8/9)

あらすじ  アリスはミカエルの前から姿を消す。ダニエルへのネブカドネザル王の信任は厚くなるが、ミカエルは王に謁見し、王が正常ではないと知る。ルーシーが傷つけられる。ミカエルは途方にくれる。王都バビロンへ向かう。アリスと再会する。ふたたび、アリスはダニエルと戦う。アリスは深手を負う。ルーシーが最後の力をふりしぼってミカエルらをタイムスリップさせる。     23 永遠のさすらいびと  もらい受けたアククゥツにまたがり、リブラの町を守る城壁の外へ向かう。ルーシーは息をきらしな

南ユダ王国の滅亡(9/9)最終話

あらすじ  着いた先は、1991年1月17日。湾岸戦争が開始された日のイラクだった。アリスは死に、同行していた二人のユダの男たちは、バビロニアとの戦いだと思い、突きすすみ地雷を踏む。ルーシーの声が別れを告げる。ミカエルは井戸の中で目覚める。地震の起きる少し前に戻っていた。これまで起きた出来事が養父の計らいだったと知る。ミカエルは、アリスの石を探し、ルーシーやアリスのいる時間へタイムスリップする。       28 荒野にたたずむ  光の渦に吸い込まれたと思ったとたん、ヒュ

ボーイ・ミーツ・ボーイ (2/8)

2 それはただ夏の陽を浴びることであり、     空の静けさと溶け合うことであり、            バイロン詩集より 「そこの二人ッ」  カンニングが見つかった瞬間、おれは男らしくすっくと立ち上がり、試験官のタニシに言った。 「やったのはおれです」 「おまえなー」  タニシはおれを通りこし、ジュンの目の前に立った。 「おまえは南川のせいで、数学を落としてもエエのかッ。大事な時期やということが、わかってないのかッ」  おれは激高するタニシに向かって、 「勝手にのぞいたン

ボーイ・ミーツ・ボーイ (3/8)

3 ぼくには千年生きたよりもたくさんの思い出がある。       ボードレーヌ詩集より  駅から射す蛍光灯の灯りを浴びて、三輪は改札口の手前でたたずんでいた。遠目にも、色濃い眼差しが見てとれる。  駅前の狭い通りに、車が停まっていた。 「三輪くん……」  学校帰り、隣を歩いていたジュンはヤツの名をつぶやいて、うつむいた。愁いをふくんだ横顔は「プリンセス王子」の名にふさわしく、はかなげだった。  強引でわがままなバラくんの言動を案じて、心を悩ましているにちがいない。いまとな