梅雨と信仰心

外の世界がやけにぼやけているから、今は梅雨なんだと気が付いた。

毎年毎年、梅雨ってこんな感じか。と思いながら過ごしている気がする。
26回梅雨を経験しても何一つ覚えられないのは、梅雨のせいで親が死んだりとか、梅雨がめぐり合わせた運命の人と結婚したとか、そんな経験が無いからだろうか。

世の中には26回経験しても覚えられない事があるのに、たった1回の経験がまるで宗教みたいに私の言動を左右するんだから、きっとそういう事だ。
入信したつもりなんてないのに。

対して面識のない、今となっては顔も覚えていない人に、物事を捻じ曲げて都合よく解釈する女と言われた事があるけど、都合よく解釈して忘れられるなら私は貴方から言われた言葉を消して梅雨の匂いとか音を覚えていたいんだけどな。

どうして、ずっと覚えていたい事はさらさらと流れ落ちていってしまうのに、こんな言葉の端々を背負い続けてるんだろう。
いつになったら解放されて梅雨の匂いと音を覚えられるんだろう。

大人になったら要領良く、上手く生きていけるだなんて馬鹿みたいに思っていたけど、その頃から大した精神的成長もしていないし、そのくせ変なプライドが頭角を表すし、何と言っても時間が有り余っていて、気がつくと自分の中の経本に書かれた言葉を反芻してさらに信仰が厚くなる。
そしてその大きくなりすぎた信仰心はずっと覚えていたい言葉や出来事を跳ね返してしまう。

多分、上手く付き合っていくしかないんだろう。
たまには窓を開けて、散歩をして、日々勝手に始まるお祈りの時間を減らして、その分、小さい子がさす色とりどりの傘とか、レインコートを着ている犬とか、雨の日に割引になるお気に入りのお店とかを見つけて、ふとした瞬間に、レインコートを着させられた犬の怪訝そうな、でも散歩に行けて嬉しそうな、何とも言えない表情を思い出せれば、わたしはたぶん大丈夫。

散歩したくなってきたな。