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#シロクマ文芸部(花吹雪サルビア編)

花吹雪と言えば そう……もとまろが歌うサルビアの花 青春時代にピリオドを打つ 楔のような歌詞……

僕と洋子は大学のフォークソング同好会で知り合った。僕は三年で 洋子は付属の短大の一年生の春に 我が同好会へ入ってきた。まだあどけなさが残る丸い顔にくるりとした瞳が愛らしかった。
「君 ギター弾けるの?」
「コード位なら引けます でもFコードがまだちょと苦手」
洋子は顔を赤らめ応えた
「Fコード やってみてよ」
「あっ はい」小さな手で躰をかたむけ力が入っていた 中指と薬指がきつそうだった
「カポを使いなよ」そう言って僕のカポを投げてやった。
洋子はそれからというもの僕の後を子犬のようについて回った。僕の経済の講義室にも滑り込ませた。洋子は僕の代わりに一生懸命ノートをとってくれた。
いちご白書の映画がヒットしていた頃だ
僕らは真似をして 教室を抜け出して映画を観に行ったけ
こんな日がずっと続くと思っていた 僕らは兄と妹のようだったんだ
二人で歩いていたとき 前から歩いてきた学生に不意に肩を小突かれた
僕はその学生をにらみつけた
するとその学生は吐き捨てるように呟いた「フン このノンポリ野郎デレデレしゃがって」
僕はおもわずそいつに飛び掛かろうとした時 となりにいた男から思い切り腹を蹴られた 僕は暫くうずくまったままでいた 悔しさと情けなさでその場から逃げるように部屋に戻っていった
「大丈夫?怪我してない?警察に行こうか?」矢継ぎ早に洋子は問い掛けてくる 僕は洋子の口を塞ぐように押し倒した はじめて結ばれた日の出来事だった 大学の方も学生たちが殺気だっていた構内にゲバ字の立て看板がおかれ講義もままならなくなりバリケードが敷かれた 僕はあれ以来学生運動にのめり込んでいったんだ 集会に参加しデモにも加わった 洋子は一人寂しく僕の部屋でギターを弾きながら待っていてくれた
「ねぇ自作の歌を書いたの聴いてくれない?」
「今日はくたくたなんだ明日で良いかな」
「分かったわ もう いい! 」そう言って洋子は背中を向けて眠った
四年の冬 試験も受けないまま大学生活を終わろうとしていた
洋子がポツリといった
「私 卒業してお父さんの会社に勤めることにしたの 二年間遊ばせてやったんだから 御礼奉公しろって お父さんらしいでしょ」
聞けば一代で製鉄会社を起こしたワンマン社長らしい 洋子の家のことなど何一つ知らなかった 随分なお嬢様だったんだ 「僕はまだ権力に屈したくないんだ 戦うよ」粋がるように僕はこたえた
今思えば何も得ないまま大学を放り出されることが怖かったんだ
「しばらくは 逢えないわね」洋子は寂しそうにいった 僕は投げやりに「あぁ」とだけ答えた その時まで 二人の間に突然の別れが来るなんておもってもいなかった
洋子と初めて結ばれた日 シィーツに赤いしみが付いていたんだ 洋子は恥ずかしがって直ぐに洗おうとしたけど 僕にはサルビアの花ビラに見えた 窓の外に咲いていたサルビアの花をベッドに投げ入れ敷き詰めたいほどの感動を覚えたんだ。洋子は 初めてを僕に捧げてくれたんだと……
遂にその日はなんの前触れもなく僕の前に現れた
「洋子ちゃんが大学のチャペルで今結婚式あげてるらしいぜ」同好会のメンバーからの知らせ
「嘘だろ!」僕はフラフラとしながら教会の方へ向かった
その時 教会の扉が開き 花吹雪の中洋子が現れた 「なんで 僕じゃないんだ 君は偽りのまま結婚したのか」
その時 洋子がこちらを見たように思えた 僕ははじかれたようにその場から逃げたんだ 何度も 転げながら……

洋子へ
今日 映画を観に行ったよ
洋子が観たいって言ってた 卒業
いつもならエンドロールまで観終わって一番最後に席を立っていたよね
だけど 今日は一人……
ダスティ.ホフマン(ベンジャミン)が教会の窓をたたき キャサリン.ロス(エレイン)を奪って走り出すシーン 僕は席を立ち途中で映画館を後にした その先に進む勇気が無かった僕は もはや敗北者なんだ 独りよがりの愛を君に押しつけ 舞い上がっていただけだった
君は知らない間に大人になっていたんだね 
ここまで書いて ペンが止まった
幸せに なんてまだ書けないだめな俺
僕は手紙を破り捨てた

僕は知らない街に佇んでいた
その町の小さな理髪店に立ち寄った
「済みません この長髪バッサリ切ってもらえませんか」
店主は一瞥して「お客さん 就職かい?」
「あっ はい」
僕はずっと目をつむったままでいた
「お客さん 髭を剃ったら いい男だね」
「さっぱりしたねぇ やぁいい男に仕上がった なんなら角の写真屋で就職写真もとっていきなよ」
そう言って 店主は僕の背中をポンと押してくれた
知らない街で受けた温かさに今までの冷たいものが溶けていった
外に出れば 花は終わりを告げ木々は裸木のままではあったが 新芽が顔を覗かせていた
「さぁ 祭りは終わった これからだ」
僕は 迷いなく 写真屋の方へ向かった


(了)


シロクマ文芸部 花吹雪のお題
サルビアの花といちご白書をもう一度をイメージして書いてみました
青春オマージュ編 その時代を経験してはいないので 間違っていたらお見逃し下さい🙇



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