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古書店で見付けたものは


本の出会いは突然やって来る
こちらの本も然り
(方舟に積むものは)ほうせん?いえいえ はこぶね 
私だったら限られたスペースに何を積むだろうか… 本の前でふと立ち止まる
本の装丁 本の題名 ただならぬセンスのよさを感じる 「買うべし!」
天からの声がした (ちょと大袈裟…)
望月通陽(もちづき みちあき)
1953年 静岡生まれ 染色家 造形作家 1995年、講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞 画文集「道におりた散歩家」で2001年、ボローニャ国際児童書展ラガッツィ賞受賞 作品集に「円周の羊」「クリスマスの歌」「サリーガーデン イギリスの愛の歌」などがある。
2003年 筑摩書房より出版
目次

方舟に積むものは
目次

雲の消息
枯れない花
水のモザイク
光る竹
タンブリンマン
雨に住む
橋の途中から
海を嗅ぐ
いのちの装丁
手紙
影の同席

方舟に積むものは
 目次

匿う布
花を尋ねる
漕ぎゆく人
闇に咲く花
空の窓
義母の手
本の間から
台座の上の風景
老杉の弟子
深い腕
アントニウス
万華鏡
目次を追っただけで 言葉が俳句的だ 染色家としての芸術的センスと言葉を創り出すセンスは一体なのだろう
ちょと 怖い…… 作者の才能に打ちのめされそうだ
方舟  書き始め
男の子はいつも自分以外の誰かになりたがる。確かある音楽家の伝記にこんな一行があった。私はもう男の子と呼ぶにはすっかり指紋をすり減らしてしまったけれど、それでもなりたい人がいる。
ゼベットじいさんである。
途中省…
私はゼベットじいさんになるのである。手垢にまみれた道具箱を棚に揃えたら、部屋の明るい隅には古机を置き、となりには尻にいちばん馴染んだ椅子を引き寄せて。……省略
そうして電話と扉に鍵をかけたら、私は声にならない声を映すため、私の水面を磨かなくては。そして椅子が海よりくぼむまで、私は私にすわり続けようと思う。窓から外を見下ろせば、染布が風をはらんで出航を待ち兼ねる帆のようだ。錨を上げたらそのままゆっくりと、家ごと庭を離れ、家並みをかすめて漕ぎだせるかもしれない。……省
そして無辺の洪水を待つ
私だけの
方舟なのである。

方舟染色画

ゼベットじいさん あのピノッキオを作った人形職人のおじいさんになりたいなんて のっけから面白い!
望月さん 省略した文の中で髭まで蓄え ゼベットじいさんになりきって自分と真剣勝負で向き合いたいと かなり職人肌だ
最期に本職の染色で文章にそった作品で締める もうすでにクラクラしてきた
雲の消息より
こちらは 父親についてふれている
鎌倉彫の職人であった父親から 彫刻刀で鉛筆をよく削ってもらったことに触れている
芯を削りだす わずかな時間に小さな願いを籠めるとも
スケッチブックに目が降りてゆくまでのほんのわずかな時間を どんな時代になろうとも、鉛筆のもつ静かな時間を訥々と削りだしながら仕事に向かいたいと 真面目だ!几帳面だ!
カメラ小僧だった頃の思い出
中学生になって 自分を狡猾な子供だったと、まわりの級友と表面上では泣き笑ったり演技する自分に疲れてくる
毎日曇り空のような気持ちで教室にいたとも 学校から帰ると夕方まで一人ぽつねんと釣りをしていた…… 
釣りをしている間は

私は私と二人でいられた

そして大人になって ラヴェンナのサン.ヴィッターレの教会を訪れた時
子どもの頃の川の情景が浮かぶ

いきなり私は裸足になるとザブザブと音を立てて床を歩いた。黄土 赤茶  黒 灰緑 灰色 浅葱 乳白。それら無数の石片を柘榴の実のように嵌め込んだモザイク模様は午後の光を斜めに浴びてそれは川底に揺れる小石、そして流れる水のきらめきそのものだと
モザイクタイルに手をつき 中学生だった頃の川面に対面する 寄ってくる稚魚の列 柱の陰に消えてゆく
しかし私は釣り竿をもう持たないことに気付くのである
芸術家の書く文章はこんなにも色を持ち 抒情的なのであろうか
幼少期から今に至るまでを瞬時に捉えた直感力で言葉を紡ぎ出す
心に刺さった一文を拾い出してみた

タンブリンマン
作者は 図案に煮詰まると 仕事を辞めて ゆで卵をつくるそれでもイメージがわかないとき履く とっておきの靴がある
それは ディランの歌うタンブリンマン……略 
ただゆれるままに聴くうちに、いつしか風の歌の靴を履かされて、私自身の先頭を歩いているのである。……略
ネクタイ売り場の神に出会っても白紙の名刺をわたしていつも涼しい首のまま、私自身のタンブリンをならしつづけ聞きのがすことなく、私の磨いた橋の途中でごう慢な希望に膨らんだ胸のぼたんをはずす

雨に住む

傘をさせば雨の幕に囲まれた。そこには水中にぽっかりと浮かんだ泡のように静穏が丸く落ちて、私はぷかりぷかりと街の底から水面へと、時にはうろ覚えの歌を口ずさみながら浮きつ沈みつ歩いたものだった。
影の同席
淋しいときには一人になる。
それが私の方法。
そしてなによりひとりでいたら、きっと人を想っていられる。

あの言葉もこの言葉も 書きしるしたいとの思いは有るのだが少々疲れた
最期に この本の帯裏に 作者の思いが書かれていた

方舟に積むものは、私を支えてくれるすべてのものなのだと、ただそれだけを書けばよかった。
だからもう、あまった原稿用紙はみんな紙飛行機にして、空に放してやったなら、さぁ、私は仕事場に戻らなければ、
やせた鉛筆に託してより

永平寺の禅僧のような一途さ
清々しさ
どこまでもゼベットじいさんのような職人でいたいのだろう
古書店で森の奥の秘密の湖に出会えたような本でした。

ここまで読んで下さったお方にお礼申し上げます
時には 真面目に書くことも有ります
エヘッ(*^.^*)








 




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