どうすれば勉強が得意な子に育つのか
学習塾を運営している人間に、最も多くの人が聞きたい質問は今日の題名であろう。これに対しての答えの一つを今日は綴っていくことにする。
「得意」というのはどれくらいを指すのかをまず示しておく。
・元来の勉強の才能がある子→公立中で上位5%
・元来の勉強の才能が並みの子→公立中で上位20%
・元来の勉強の才能に欠ける子→公立中で上位40%
公立中で上位40%というのはインパクトに欠けるかもしれない。しかし私にとっては結構大切なラインである。なぜなら「無知すぎることに起因するトラブルが圧倒的に少なくなるライン」がこの辺りにあるからである。ちょっとした科学の話や歴史や地理の雑学、割合等をイメージする力、そんな話題に何となくでも参加できるのがこれくらいの学力だと考えている。
因みに10年ほど前はそれぞれ10%、30%、50%と答えていた。少し数字を変えたのはここ数年の学力崩壊の様子を踏まえたからである。例えば少し前までは勉強が苦手な子でも「小3で習う内容は3年生のうちに習得しなければならないのだ」という意識を9割は持っていたが、今はそれが7割くらいである。「割り算って不快だからや~らない」となる子が増えたのだ。「マラソンかあ、、私は嫌いで遅いけどクラスの他の子たちは頑張ってるんだよな。私もベストを尽くそう」と考える子は本当に減った。「マラソンなんて苦しくて私が嫌いな内容を学校でやるのおかしい。休もうっと!」となるのが今の子である。そんな環境なので上方修正が必要だと感じたのである。
さて本題に移ろう。早速だが冒頭の答えを発表する。
それは「小学校低学年で勉強が得意な群に入っておく」である。
「ハッ!?」と思われるかもしれない。「何の答えにもなっていないではないか!」と訝る人もいるだろう。しかし特別ではない方法で勉強が得意になるにはこれが最適だ。以下で詳細を書いていくことにする。
今の時代の学習や子育てに関する情報で多いのは「好きなものを見つけてそこに注力しなさい」である。別にそれは間違っていない。しかしこの手法は意外と人を選ぶ。好きなものを明確に言えなかったり、それが親が望まないジャンルであったりすることも多いからだ(ゲーム、動画視聴、年齢の割に過度なメイクやオシャレなど)。そして結構多くの親御さんが勘違いされているが「勉強ができる子は元々それが好きなのだ」と考えすぎている感がある。
私は小中学生の勉強が得意な上位20%のうち「勉強が好き」という子はその中の20%くらいであると感じる。残りの50%は「まあ普通」で30%は寧ろ「嫌い」である。でもなぜ得意なのかというと「小さい頃からできたから、できないと気持ち悪い」という感覚がある。また「できると認められる、褒められる」ことを体感している。更に踏み込むと「勝利の味を知っている」という経験も大きい。
最近の中学生を見ていて感じるのは「勉強が得意な子が体育祭でも文化祭でも活躍してLINEグループでも幅を利かせている、更に友達付き合いも幅広く性格も良いので地域の大人の信頼も厚い」という現実である。これは上記の「できないと気持ち悪い」「認められる、褒められる」「勝利の味を知っている」の要素が大きい。勉強でそれらを味わったので、他のジャンルでもそうありたくなるのだ。そして認められて褒められるから他人に優しくできる、そうやって正のサイクルが全てのジャンルでグルグル回るのである。
確かにこの要素には家庭の格差や元来の能力も多分に絡んでいる。しかしそれを拡大しているのは「年長~小2」の頃にできる経験や勝つ経験をしたか否かが大きいと確信している。
そして「小2まで」であれば中高よりも上位に入るのは容易である。今の人にウケる表し方をすれば「コスパもタイパも良い」。まだ親の言うことを聞くし、国語なら音読と漢字の読み書き、算数なら四則計算と簡単な図形、そして少々の読書を生活の中に取り入れれば、まあ上位層に入ることができる。一部首都圏の文教地区は別にして、そうでない地域なら以前よりも簡単に上のグループに入ることができる。当たり前のことを当たり前にすれば上位3割に入ることができるのが今の公立小学校の現状である。
冒頭の例にマラソンを挙げた。マラソンや駅伝観戦が趣味で自分でもフルマラソンに挑戦している私が、今日の内容を思いついたきっかけが陸上雑誌だった。そこにはずらっと現役や引退した長距離陸上選手のプロフィールが並んでいた。そこに「陸上を始めたきっかけ」という欄があった。そして半数強の回答が「小さい頃にたまたま出たマラソン大会で活躍したから」だった。
長距離走は子どもを取り巻くジャンルの中では数少ない「勉強以上に不人気な活動」である。しかし何気に競技人口は安定している。始めた理由の多くは「小さい頃に大会で勝ったから」なのである。「練習したから勝った」よりも「勝ったから練習する」の順が多かったのがポイントである。一線で活躍している選手たちでも「走ることそのものが好き」というランナーはあまりいないのではないか?ちなみに市民ランナーの私も小1のマラソン大会でクラス1位になった経験は今に繋がっている。クラスで最も小さく決して体育では目立たなかった私が大会で優勝した時には多くの教師や友達が驚き喜んで認めてくれた。あれが無かったら今の趣味は無かったかもしれない。
因みにこの記事を書く直前には「全国中学駅伝」をテレビで観戦していた。トップ集団を走る1区の選手の紹介で「生徒会長で定期テストは490点、将来の夢は医者」の子がいた。正に勝利の味を知っていて、様々なことに貪欲なのであろう、と気づかされた次第である。
「自発的に」が全盛の時代であるからこそ、あえて逆の提言をしたい。「一桁の年齢の間に誘導でも強制でもいいから勉強を始めて『勝つ経験』を積ませてあげること」これが勉強が得意な子を育てる最も有益な方法である。