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私が学力低下を発信する根拠

折に触れて「小中学生の学力が下がっています」と発信している。もう一歩踏み込むとここ数年の小学生には「本当にホモサピエンスなのか?学力低下どころの問題ではなく、生物的に何か問題が発生しているのではないか?」とさえ感じている。

このような発信には「昔からそうですよ」とか「塾は不安扇動産業ですからね」とか、そんな反論がいくつかくる。しかし私も根拠無しで発しているわけではない。この半年にあった事例をいくつか挙げながら考えていくことにする。

ケース1(小3女子)
1学期の終業式の直前だった。新規の電話が鳴った。学校の懇談会とその後に配布されたものを見て不安になったから電話したとのことで、そのまま入塾で二者面談となった。
「うちの子は勉強があまり得意ではなく、真ん中より下くらいだと感じていました。保護者懇談会ではその点を色々と指摘されると思って意を決して学校に行ったんです。そうしたらのっけから褒められて拍子抜けしました。算数はスピードに欠けるけれども皆と同じくらいできて、漢字はクラスでも皆を引っ張る存在だと。でも私から娘の漢字ドリルやその他の取り組みを見ているとそんなイメージが全く持てないんです。そして昨日は1学期が終わるということで賞状をもらってきました。鉄棒とか絵とかそっちでもらってくると思ったら『漢字がよくできる賞』だったんです。私にはどうしてもできると思えなくて…」

翌日、娘さんに来てもらって10分程度で終わる漢字の読み書きをやってもらった。結果は以下2枚の画像である。どちらも6月後半から7月に習ったであろう漢字からの出題であった。

漢字の読み18題
漢字の書き14題

お母様は「やっぱり」と言ったきり絶句した。私も想像以上にできなかったことと空欄が非常に目立つことに驚いた。そして実際に通知表の国語の評定も○◎○であった。多分、この児童の漢字の読み書きでもクラスで上位に位置するのだろう。さすがにこれは過去の指導歴では見られなかった水準である。

ケース2(小4女子)
ここ数年の小学生で戸惑ってしまうのは、ついさっきまで完璧にできていた内容が次の瞬間全くできなくなってしまう場面に遭遇することである。冒頭の「ホモサピエンス~生物的に~」というのはこのような事例から想起する内容である。高学年であっても、ひらがなやカタカナが出てこなくなったり何なら読み書きを間違えたり、足し算や引き算や九九もほぼ何も習っていないような状態になってしまう場合が多い。こうなるとテスト対策をしても翌日のテストの時間にはきれいさっぱり忘れている状態があり得るので何の担保にもならないのである。
4年生の親御さんから連絡があったのは9月の半ば頃だった。
「夏休みの後半くらいから、勉強も含めて何かボケっとしているんです。これは私どもの責任もあるような気がします。お盆のころから生活が乱れてしまったのが原因だと思います。先日学校で運動会のプログラムの扉絵を書く時間があったそうで、絵の好きな娘はそれなりに頑張って書いたようですがやっぱり選ばれるまではいきませんでした。でもそれを見たら一気に不安になったんです」
この文章の後に画像が送られてきた。

小4の児童が描いた運動会の扉絵

お母様の指摘は
「フレフレ」がカタカナでないことと、かつぞおの「そ」に濁音がないこと、また「お」の右上の点が抜けていることであった。
「これを娘に聞くと『えっそんなの時々ある事じゃん。ママよく気付いたね』って返ってきました。またこの絵に関して学校から何もこちらに連絡が無いんですよね。何なら連絡帳には『意欲的に楽しく取り組めました』と先生から書いてあっただけです。ちょっと不安になって医療機関にも伺ったのですが特に問題なしの診断でした。一応先日も『フレフレ』と『かつぞお』を目の前で書いてもらったんですけど、その時は書けました。でも一文字一文字が自然と出てくるわけではなく、考えてから書いている様子が気がかりで仕方ありません。1年生の時から進歩どころか退化しているようで不安になります」

ケース3(小3女子)
こちらの子は以前から通っている児童で入塾時からやや落ちこぼれ気味だったので学校よりは遅い進度で進めてきた経緯がある。そんな状況の中でこんなLINEが届いた。

確かに塾では2学期のローマ字や漢字は行っていない。しかしツイートでも指摘したように0点になってしまうものだろうか。小学校の低学年であればどれだけ苦手でも30点くらいは取れるものだと考えてきた。しかし最近は平気で0点を取ってくる子が増えている。同時に100点を取る子は減少している。

こちらの本音を言えば「ローマ字や漢字の暗記はご家庭でさせてもらえませんか?塾でその時間を取ったら勿体なくないですか?」である。しかし親御さんにも言い分がある。ここまでの3つのケースのご家庭は全て、少し年の離れた兄姉がいるという共通点がある。そしてケース2の方を除いてその上のご兄弟は塾に通うことなく高校や専門学校や大学に進学されている。つまり3人目,4人目であるが初めて塾に通わせているご家庭なのだ。
「学校に任せておけば上の子たちはそれなりにできました。同じようにやっているのになぜ下の子はこうも躓くのでしょうか?また平均程度でも上の子たちの先生は『もっとこういう所を伸ばしていきたいですね』と課題を示してくれました。でも今の先生たちはニッコリと微笑みながら『よくできますね』と言うだけでうちの子を真剣に見ているのか疑問に感じます」
お母様たちの発言とメールをまとめるとこんな感じになる。

教員の本音は「モンペ対策で短所を指摘なんてできません」とか「もっとできない子が何人もいるんです」ということになるのであろう。
またこの3人の児童で考えると、年の離れた兄姉がいることで早い時期からゲームやタブレット、スマホのアプリに触れることが多かったのは間違いない。それが学力を伸ばす阻害要因になっていることも考えられる。

ケース4(小6女子)
こちらは初夏のことである。何人かの生徒から名前が聞いたことがあった「できる」と評判の子のご家庭から問い合わせがあった。入塾面談の時にはっきりとは明言しなかったが「学校の勉強では物足りない」という雰囲気を感じた。特に社会に関しては保護者も本人も相当自信を持っているようだった。
しかし都道府県の書きのテストは37/47。しかも私を困惑させたのは徳島や高知などいくつかの県を「知らない、聞いたことがない」と答えたことだった。現在都道府県は4年生で習う。したがって学校の範囲を逸脱しているわけではない。歴史においても「まあ平均少し上レベルだよな」と感じさせる実力であったが通知表は常に二重丸だらけの「3」しか無かった。他の保護者様から「○○ちゃんは別格だから」と話されたことがあるが、あの実力で別格なら私の同級生の3割は別格だったように思う。

ケース5(A中学校1年)
ここからは中学だが個人の事例では無い。シンプルに学校から発表されたテストの結果をアップする。下のグラフは中学に入学して初めての定期テストの分布である。

1学期期末テスト5教科の分布

ご覧のように5教科合計が450点の生徒がいなかった。同時に50点以上99点が6人、49点以下が15人いる。この結果にはさすがに驚いた。最頻値が300点~349点なので、1年生の1学期としてはやや難しかったと言えるが、中学の定期テストでは「並」に入る難易度だった。問題を細かく見た時に平均点は280点~300点程度が妥当と感じたが実際は231点であった。特に結果が悪かった社会は以下のような分布になった。

1学期期末テスト社会の分布

50点以上が38人、49点以下が95人という中1では前代未聞の結果である。中央値が35点くらいになる。一世代前なら学年の最低点数であってもおかしくなかった点数である。

そして今回2学期の中間テストの結果が出た。

2学期中間テスト5教科の分布

当然ながら1学期のテストと非常に似通った分布となった。平均点は240点である。今回最も平均点が低かったのは数学だった。

2学期中間テスト数学の分布

90点以上がおらず、80点以上でも5人のみ。19点以下が30人を数える。「正負の計算、文字式、方程式の計算と多少の文章題」が範囲だったことを考慮すると更に恐ろしくなる。
5科合計の順位も従来30番くらいに入る生徒が5番くらいを取ってきて、平均ちょっと下と感じる生徒が30番くらいに入ることができる。

このケース5のA中学校で見られるような著しくレベルが低い学校や学年がポツポツ出現している。そしてそれが下の学年になるほど多くなっている。私の塾生が通う中学では以下のような傾向がみられる。
※ 〇印は塾生が在籍していることを示す

A中学校
3年…非常に低い
2年…低い 〇
1年…非常に低い(ケース5)〇

B中学校
3年…高い 〇
2年…低い 〇
1年…高い 〇

C中学校
3年…非常に高い 〇
2年…高い
1年…高い 〇

D中学校→来年度から5教科の授業10%削減
3年…非常に低い
2年…非常に低い 〇
1年…非常に低い

E中学校
3年…普通
2年…低い 〇
1年…低い

身構えてしまうのが上記のケース1~4の小学生たちは全員がB中学校に進学予定の子たちであるという事実である。ご覧のようにB中学は年毎のばらつきが大きいもののまずまずレベルが高い地域にある学校である。しかしその足元が揺らぎ始めているのを感じている。
また今回挙げた小学生たちが全て女子だった点に注目してほしい。従来極端に勉強ができない子と言えば男子なのが定番だった。特に小学校の後半は成長過程の違いから大きな差が生まれやすい時期である。これだけ小学生女子の勉強のことで頭を悩ませるのは20年この仕事をやってきて初めての経験である(男子ではずっと悩んでいるw)。乳幼児期を含め子どもたちの学力に大きな影響を与える何かがあるのは間違いないだろう。

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