【詩】月の舟
今夜も
賑やかにさざめく
糸たちを
経糸にくぐらせながら
ほのかな灯りに
頬を照らし
川の汀に
舟が寄せるのを待つ
ぷかりぷかりと揺らぎながら
一年に一度
その舟はやってくる
軽やかな機の音で
糸のさざめきを
川のさざなみに溶かしながら
織姫は、待つ
空を振り仰ぎ
月の舟が日毎に彦星に近づくのを
確かめ
わたしは
永劫の約束が
遠い空で果たされていくのを見つめる
わたしとあなたには
そんな約束などなく
ただ、待つことに
馴らされたわたしがいる
汀の波に足を濡らし
わたしには来ることのない
月の舟を想う
波に洗われ
ゆるやかに髪が解かれると
月の舟などなくてもよいのだ、と知る
ただ、この流れを渡ればいいだけのこと
わたしを覆う空の上で
月の舟は向こう岸へ辿り着く
わたしは
流れに浮かぶ星たちのさざめきを乱すと、
導かれるまま、流れを渡る
七夕、今年は晴れたので、天の川を挟んで向かい合うベガとアルタイルの写真があちこちでアップされた。
(わたしの住む地域でもアップされていて、こんなに見えたんだ、と驚いた。)
でも、本当に織姫が彦星に会えるのは、今年は8月10日(プラス4日後かな)。
旧暦の七夕は必ず半月で、舟のように横になった月が、天の川の西岸の織姫のいる場所から、徐々に彦星のいる東岸に、毎日少しずつ移動するそう。
そんな夜空の星と月の巡りに思いを寄せて、織姫が月の舟に乗って彦星に会いに行くという伝承が生まれたということ。
今回の詩は、その地上の人びとの思いが詰まった素敵な伝承をもとにしました。