千葉県の地域リハビリテーション支援体制
こんにちは。私は大阪府の北摂地域で、作業療法士として約13年間のキャリアを重ねてきました。地域社会に何か意義深い貢献をしたいという思いから、全国の地域リハビリテーション支援体制がどのように成り立っているのかを調査し、各地での工夫について学ぶことに決めました。
今回ご紹介するのは、千葉県における地域リハビリテーションの取り組みです。地域リハビリ支援体制を構築する上で、地域リハビリテーション支援センターがどのような役割を果たしてきたのか、その歴史や私が特に素晴らしいと感じたポイント、そしてこれからの進化の可能性について、皆様と共有したいと思います。
この記事を通じて、皆様に新たなひらめきやアイデアが浮かぶことを願っています。興味がおありでしたら、ぜひお読みください。
(1)千葉県の地域リハビリテーション支援体制整備事業
千葉県において、地域リハビリテーションの取り組みは、長い歴史と共に発展してきました。1981年に千葉県が設立した千葉県身体障害者福祉事業団により運営されている「千葉県千葉リハビリテーションセンター」は、2000年に県から都道府県リハビリテーション支援センターとしての指定を受け、これを契機に、2001年には千葉県地域リハビリテーション協議会を立ち上げました。
続いて2002年、地域のニーズに応じたサポートをより体系的に提供するため、「千葉県地域リハビリテーション連携指針」を策定しました。この指針に基づき、2次医療圏域ごとにリハビリテーション広域支援センターを1箇所設置する方針を定め、病院の体制や意向に関する調査を実施。その結果を踏まえ、2007年には予定されたセンターの設置を完了させました。
これらのセンターは、地域における医療施設や関連機関との連携を深め、多方面にわたる活動を展開しています。具体的には、各病院と地域の連携強化、介護予防教室の巡回指導、講演会の開催、高次脳機能障害を持つ方々への支援、そして研修会の実施など、多岐にわたる支援を行っており、地域住民の健康と福祉の向上に寄与しています。
(2)独自の事業を開始
千葉リハ協議会は、地域医療の充実を目指し、積極的に様々な調査を実施しています。2009年に県内の脳卒中患者に関する動向調査を開始し、その後2010年から2011年にかけて、より詳細な実態調査を行いました。調査の結果、地域包括支援センターの職員が作成する利用者のケアプランに療法士のコンサルテーションを取り入れることで、患者の生活機能の向上が見られることが明らかになりました。
この重要な発見を受けて、2012年には地域包括支援センターの職員と療法士が協力する新たな協業事業が立ち上げられました。この事業は、患者様一人ひとりのニーズに応じた、より質の高いリハビリテーションサービスの提供を目的としています。
さらに、この協業モデルは、2014年に介護保険制度のもとで「介護予防・日常生活支援総合事業」として制度化されました。これにより、千葉県での成功例は全国の多くの市町村においても実施されることとなり、千葉県が日本全国における地域リハビリテーションの先進モデルとなる契機を提供したのです。
(3)ここがすごい
①徹底した調査
2014年に施行された「医療介護総合確保促進法」により、千葉県の地域リハビリテーション支援事業は新たな局面を迎えました。この法律の下で「在宅医療拠点運営事業」の一環として位置づけられ、資金の源泉として国からの配分が可能となったのです。これは、消費税増税に伴う税収を背景に、国が事業内容を確認し、財源を提供するというものです。この大きな変化を受けて、千葉県では「千葉県地域リハビリテーション連携指針」の見直しが行われました。
2014年3月には、千葉県リハビリテーション支援センターを中心にリハビリテーション広域支援センターの事業調査が行われ、その後8月には市町村、地域包括支援センター、医療機関など関連する機関の調査が実施されました。これらの調査結果は2015年3月にまとめられ、さらに11月には県民の声を反映させるために「県政に関する世論調査」による県民調査も行われました。
これらの調査結果をもとに、各機関の代表者からなるワーキンググループで、リハビリテーション広域支援センターが今後5年間で担うべき機能と役割についてのブレインストーミングが実施されました。この際、ネガティブな意見を控え、「もしもお金があれば」という前提を排除した前向きな議論が求められました。外部の方にも見学していただきたいほど充実したブレストであったことは想像に難くありません。
このプロセスを経て生まれたアイディアは、慎重に分析され、優先順位を決定しました。そして、新たに整理された「千葉県地域リハビリテーション連携指針」が2017年に「千葉県保健医療計画」に盛り込まれたのです。
この指針には、リハビリテーション広域支援センターが担うべき基本的な機能と、地域の実情に応じた役割が明確に記されています。前者には市町村事業との連携や医療と介護の橋渡しとなる役割が含まれ、後者には地域に根差した革新的な取り組みの実施が含まれています。これらの基に、さまざまな教室やイベント、交流会が企画され、開催されているのです。
②連携体制
千葉リハ協議会は、県内の医療と介護の連携における課題を解消するために積極的な役割を果たしています。通常、県は医療政策を、市町村は介護政策をそれぞれ策定・運営するため、両者の連携は困難とされてきました。しかし、リハビリテーション広域支援センターがこの連携の架け橋となり、市町村の支援を通じて両者が協力する体制を構築しているのです。リハビリテーション広域支援センターは非常に重要な役割を果たしていますが、一方で人手不足が顕著な問題として挙げられていました。
この問題に対処するため、2017年1月には「ちば地域リハ・パートナー制度」が開始され、医療機関や施設からの協力を呼びかけました。この制度には多くの応募があり、わずかな期間で指定された機関の数が飛躍的に増加しました。4月には62機関、9月末には92機関、そして2018年2月には136機関がこの制度に参加しています。リハビリテーション広域支援センターで経験を積んだ若い療法士たちは、地域リハビリテーションの専門知識や技術に長けており、彼らが中堅として地域で活躍し始めています。こうした療法士の育成が、多くの機関が協力的に名を連ねる原動力となっているのではないでしょうか。
2019年度には、リハビリテーション広域支援センターからの依頼が80件を超え、さらにはリハビリテーション広域支援センター介さず直接「ちば地域リハ・パートナー」への依頼も増加しており、その数は180件を超えています。これは、地域社会におけるリハビリテーションの重要性が高まっていることの現れであり、制度の成熟とともに地域のニーズに応える能力が向上していることを示しています。
(4)千葉リハへの期待
千葉県の地域リハビリテーション支援体制が、2017年9月におこなわれた厚生労働省主催の「第11回医療介護総合確保促進会議」の資料に取り上げられたという事実は、その取り組みがいかに先進的かつ注目に値するかを示しています。
2023年度に予定されている『千葉県保健医療計画』の改訂という大きな節目に際し、リハビリテーション広域支援センターの機能と役割に関する再検討は、今後の地域リハビリテーションの質と範囲を大きく左右する可能性があります。
私自身の期待を述べますと、地域住民の情報リテラシーを高めるという点において、まずITリテラシーを向上させる取り組みから始めて、ICTを活用したリハビリテーションの観点からの健康管理プロジェクトへと展開していただけると嬉しいです。
また、市から委託されているイベントが参加者を十分に集められていないという課題に対しては、「成果連動型民間委託契約方式」の導入が有効ではないかと考えております。これにより、リハビリテーション広域支援センターが事業の仕様に対するより大きな裁量を持つことができ、イベントの内容や参加者募集の方法について、主体的にアイデアを出し行動に移せるでしょう。
千葉県のリハビリテーションの取り組みは行政との連携が密接に行われているため、このような革新的な活動を実現できるのではないかと期待しています。
記事作成日:2022年4月30日
参考情報
【註1】厚生労働省HP、第11回医療介護総合促進会議、『地域医療介護総合確保基金の事後評価、交付状況及び内示状況について』(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000176926.pdf)、14ページ、2022年4月3日時点。
【註2】千葉県HP、千葉県地域リハビリテーション協議会、『千葉県地域リハビリテーションの概要』(平成22年度〜令和3年度分)(https://www.pref.chiba.lg.jp/kenzu/shingikai/rehabilitation/tiikirehakyougikai.html)、2022年4月3日時点。