三島由紀夫——天才が駆け抜けた45年の生涯「文学」と「武士道」に生きた男

「もし彼が今も生きていたら——」

そんな問いを投げかけたくなる作家がいる。三島由紀夫。

彼は、美しく、才能に溢れ、そして狂気じみた情熱で生きた男だった。文学においては芥川賞候補6回、ノーベル文学賞候補にまで上り詰め、日本の戦後文学を象徴する存在となった。一方で、その最期はあまりにも劇的だった。市ヶ谷駐屯地での割腹自決——まるで小説の一場面のような壮絶な死を遂げた。

彼の人生は、どこか「一つの作品」のようだった。

1. 病弱な少年が生まれた「文学の天才」

1925年（大正14年）、三島由紀夫（本名：平岡公威）は東京の裕福な家庭に生まれた。しかし、その幼少期は異常な環境だった。

祖母によって「外の世界から隔離され」、少女趣味の教育を受けた。剣道やスポーツを禁じられ、かわりに彼の心を支えたのは文学だった。少年時代から「源氏物語」「西洋文学」に親しみ、わずか12歳で短編小説を書き始める。

エピソード：祖母に囚われた少年時代

三島は、祖母によって「母親から引き離されて育てられた」。体が弱いことを理由に、祖母は三島を過保護に扱い、「他の子どもたちと遊ぶことさえ許さなかった」という。だが、逆にこの孤独な時間が、彼の想像力を極限まで育てたのだろう。

そして、17歳で書いた『花ざかりの森』が文壇の天才・川端康成に絶賛され、三島は一気に文学の世界へと飛び込んだ。

2. 東大卒エリート官僚から作家へ——「命を削る執筆」

東京帝国大学法学部を首席で卒業し、大蔵省（財務省の前身）に入省したものの、彼の心は官僚の世界にはなかった。
「このままでは自分は埋もれてしまう」

たった9ヶ月で辞職し、作家としての人生を歩み始める。「命を削るように書く」。

彼は異常なまでに完璧主義だった。朝から晩まで執筆に没頭し、原稿を一文字でも書き間違えたら、最初から全部書き直したという逸話まである。

エピソード：睡眠時間を削り続けた日々

三島は「1日15時間以上」執筆を続けることがあった。しかも、彼は夜中の2時に寝て、朝6時には起きるという超短時間睡眠だった。「体を削ってでも作品を生み出さなければならない」という強迫観念のようなものが、彼の中にあったのだろう。

そして、代表作『仮面の告白』（1949年）で、日本文学に革命を起こした。この作品は、彼自身の同性愛的傾向や自意識を赤裸々に描いた衝撃作だった。日本文学界は震えた。「こんな小説は読んだことがない」と。

3. 「肉体の変革」——作家がボディビルを始めた理由

だが、三島由紀夫は「文学」だけでは満足しなかった。**「言葉だけでなく、肉体でも自己を表現する」**という強迫観念に駆られた。

彼は30代からボディビルにのめり込み、肉体改造に取り組む。自分の体を「芸術作品」にしようとしたのだ。

エピソード：「文士が筋肉を鍛えるなんて！」

当時、文学者が体を鍛えることは異例だった。「三島はおかしくなったのか？」と揶揄する声もあった。しかし、彼は意に介さなかった。それどころか、『薔薇刑』という写真集で、全裸で鍛え上げた肉体を披露して世間を驚かせた。

この頃から、彼の思想は「武士道」や「天皇崇拝」へと傾倒していく。

4. クライマックス——「市ヶ谷事件」への道

「言葉だけの世界はもうたくさんだ。俺は行動する」

1970年11月25日、三島は自らが組織した**「楯の会」**（私設軍隊）のメンバーとともに、自衛隊の市ヶ谷駐屯地に突入。クーデターを呼びかける演説を行うが、誰にも相手にされなかった。

エピソード：「お前らには武士の魂がないのか！」

彼は自衛隊員たちに向かって、「お前たちは日本を守る気概があるのか！ 戦後の民主主義に毒されているのではないか！」と叫んだ。しかし、彼の演説を聞いていた自衛隊員たちは失笑し、ヤジを飛ばす者さえいた。

「日本人はもう魂を失ったのか」

そう叫ぶように、彼は自らの腹を刀で切り裂いた——。

享年45。

5. 三島由紀夫とは何だったのか？

彼の人生は、まるで映画のように劇的だった。

・言葉の天才
・完璧な肉体

彼は、純粋すぎたのかもしれない。

文学と武士道——その狭間で揺れながら、彼は一つの「物語」として自らの人生を終えたのだ。

もし彼が今も生きていたら、どんな小説を書いたのだろうか？