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ヘビの餌:ネズミ類の餌やり

ヘビの餌として、現在最も多く与えられているのはマウスやラットなどのネズミ類でしょう。
"ヘビを飼っている" という話しをすると"ネズミを与えているんですか?" と返されることもあります。ペットとしてのヘビについて、少しでも知識のある人の多くは "ヘビの餌=ネズミ類" というイメージを持っているようです。

しかし、これまでたびたび記してまいりましたように、ヘビの餌としてネズミ類を与えることには少なからずリスクが伴います。

"ラットスネーク" という通称のあるヘビをはじめとしたいくつかの種を除いては、自然下でネズミなどのげっ歯類を主食としてはいません。
巨大なネズミ "カピバラ" を食べるようなイメージのあるミドリアナコンダでさえ、どちらかというとカイマンや魚類のように、彼らの体型にあったスリムな、なおかつ消化器系への負担が比較的少ない餌動物を好みます。

カロリーや栄養価こそ高いものの、決して消化・栄養吸収の効率が良くない(ネズミは消化に要するエネルギーコストが少なくありません)ネズミ類は、彼らにとって決して "ベスト" あるいは "唯一無二" の餌などとは言えません。
ヘビの飼育においては "ネズミ幻想" のようなことがまことしやかに広がっていますが、できることならネズミを与えずに飼育をしたいと私は考えています。


とはいえ、購入元のお店で長期間にわたりネズミだけを与えられて管理されていた個体などでは、ときに "ネズミ類しか食べない" という個体もいないわけではありません。

この傾向はヘビの種とは無関係のようで、先にご紹介した雑食傾向の強いナミヘビ類であっても、長期間在庫されていた場合などはネズミの匂いにしか反応しないといったケースもあるようです。

このような場合にはやむを得ずネズミ類を与えるより仕方ありませんが、その場合にも彼らの口に入るまでにはいくつかの "関門" があります。
ヘビの消化器系へのストレスやダメージを極力減らすために、そして適切なネズミ類を与えるために必要な "注意事項" を以下にご紹介します。

1.適切なネズミのサイズ

飼育しているヘビに対して、どれくらいのサイズのネズミを与えれば良いのか。
様々なメディアに様々な情報が飛び交い、お店のスタッフですら混乱して良く理解できていないという事は少なくないようです(お店のスタッフや、動物園をはじめとした展示施設のスタッフがそれぞれの動物の生態に詳しい、というのは完全な幻想です)。

繰り返しになりますが、ネズミ類は決して消化の良い餌ではありませんので、ヘビのサイズと比較して大きなものを与えた場合の消化器系へのストレスは無視できないものがあります。

実際にヘビがネズミ類を食べているところをよく観察してみると、彼らは非常に "苦労して" 嚥下し、"頑張って" 消化器官の奥へと輸送していることがわかります。
要するにネズミ類を消化することは、それだけ大きなエネルギーを使っているということになります。
適切なサイズについての考察では、こうしたある意味での "無駄なエネルギー" をできるだけ少なくするということを土台とする必要があります。

その1つの目安となるのは餌に咬みついてから嚥下するまでの(さらに理想を言えば一定の位置までネズミが輸送されることでヘビが休息するまでの)所要時間です。
この時間が長ければ長いほど、ヘビは "苦労して" 餌を飲み込んでいるということになりますし、逆に短ければ消化器系への負担は少なくなります。

一応の数字としては2分間(ネズミ類はナミヘビ類に与えるべきもので、ボアやニシキヘビなどには高タンパク・低脂肪のさまざまな鳥類を与えます。その場合の所要時間は "5分間" )が目安となります。
したがってバイトから嚥下までに2分以上の時間を要するようであれば、そのネズミは大きすぎるという判断になりますので、サイズを落として(小さくして)与える必要があります。

ヘビのサイズと比較して1匹のネズミでは足りないと考えられる場合にはサイズはそのままとし(大きくすることはせず)、1度に2-3匹を与える(2匹目以降のネズミは嚥下が十分に済んで、ヘビが再び動き出すのを待ってから)と良いでしょう。

稀にネズミ類にうまくアタック(咬みつくこと)ができず、脇からネズミを飲もうとしたりして一度牙を外してしまうような事もあります。こうした場合には、億劫がらずに再度時間を計測し直す必要があります。

また、ヘビの種によっては一度ネズミに巻き付いてしばらく動かず、十分に締めてから飲み込むものもいます。こうした場合には "ネズミを飲み始めてから(たいていは頭から)" 喉の奥へと送り込むまでの時間を計測し、これが2分以内となるサイズを目安とします。

なお、このように適切なネズミのサイズを計測する際には、当然ながら摂餌の様子を観察する必要があります。
しかし、もし人が見ている前では餌を食べないという個体の場合にはタオルや手拭いなどでケージを覆い、その隙間からこっそりと観察し時間を計測するとよいでしょう。

2.適切なネズミの解凍方法

ネズミの給餌において、非常に重要なポイントが "どのように解凍するか" です。
もちろん、しっかりと中まで解凍できていることは最低限必要なことですが、ただ温めればいいというわけにはいきません。
極端な熱を加えたりすれば、一部のビタミンだけでなくタンパク質も破壊されてしまいます。
 
ネズミの解凍方法のポイントを一言で言うと "時間をかけること" です。
これは他の飼育管理すべてに言えることですが、時間に余裕がない時には作業は控えた方がよいでしょう。
焦って作業をしようとすると、ヘビが嫌がる "速い動き" になりやすいですし、心がセカセカしているとミスが起きやすく、究極的には飼育個体の健康に重大な影響を及ぼす失敗をしてしまうことさえ考えられます。

ヘビの飼育管理においては、幸いにして "必ずその時にしなければ命取りになる" というようなことはあまりありません。餌にしても例え1日や2日、あるいはそれまでの飼育管理に問題がなければ1週間や10日程度は放っておいても深刻な問題が起きるようなことはほぼ考えられません。

したがって作業に十分な時間が取れないと考えられる時には、一旦中止して翌日以降に延期した方がいい場合もあります。

ネズミの解凍にしてもそうで、性急に行おうとするとかえって悪い結果となります。
たとえば電子レンジや熱湯などを使った解凍では、先の通り栄養素の破壊が起こりますし、ネズミの全身をバランスよく、くまなく解凍することは難しい場合も少なくありません。

これらを鑑みた上で、ネズミの解凍方法で最も良い方法は摂氏20〜25℃程度のぬるい水を使うというものです。
現在くらいの寒い時期の場合、このくらいの温度の水で十分な解凍をしようとすると1時間ないしそれ以上かかる事もあります。
逆に言えば、それくらい時間をかけてする作業だということを理解する必要があるでしょう。餌の解凍(餌の準備)は決して片手間でできるものではありません。

なお、指で触ってみてネズミの腹部が柔らかくなったら与えられる、というような記事を見ることがあります。
しかし、ただ腹部が柔らかなくなったという判断基準では危険です。両手のひらでネズミを包み、手にネズミから冷気の刺激が伝わってこないかどうかをきちんと確認した上で、十分に問題がないと判断できたら初めてヘビに与えることができます。
少しでも手のひらに刺激を感じたら、もう一度水に戻して時間を置く必要があります。

3.消化器系を休ませる期間を設けることの重要性

ネズミだけでなく他の餌においてもそうですが、しばしば "排泄を確認したら餌を与える"  というような情報を見かけます。
しかし、長期的なヘビの健康を考えた場合、こうした給餌では消化器系への負担が大きくなります。まして、ただでさえストレス、ダメージの大きなネズミ類のことですから、一度消化・栄養吸収をしたのちには消化器系を休ませる期間を設ける必要があります。

こうした "消化器系の休養期間" はヘビのサイズや餌の量、あるいは季節(温度)によっても変わりますが、概ね1週間〜10日ほどは "消化器官にほぼ何もない期間" を設ける必要があります。
排泄を確認してから、というような給餌ではヘビの消化器系が常に働いている状態となり、結果的に寿命を縮めることになる可能性があります。

ここまで、ヘビにネズミ類を与えることのリスク、およびその注意点についてご紹介してまいりました。
ここまでの情報でも、ネズミはヘビにとっての "完全栄養食品" などでは決してないということがお分かりいただけたかもしれません。
あくまで餌動物としてのネズミを全て否定するものではないにせよ、ヘビに与えることで考えられる潜在的なリスクは決して少なくないということは理解しておく必要があるでしょう。

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