ヘビの餌:偏食性のナミヘビの餌2
前項からの続きとして、嗜好が偏ったヘビに向けた餌動物についてご紹介します。餌の嗜好、入手性は飼育下におけるヘビの寿命と直結します。
場合によっては飼育を断念することも必要になる、ということは承知しておかなければなりません。
例えば、南米原産のとあるサンゴヘビ(Micrurus hemprichii)などはカギムシ(Oroperipatus属やPeripatus属)に嗜好が偏っています。(中にはこうしたカギムシしか食べないという記載をしている図鑑もありますがこれは誤りで、実際にはスキンクやヘビなども餌とすることがあります)
このように特殊な餌に嗜好の偏りがあるようでは、とても飼育が容易だとはいえないでしょう。
物理的、経済的あるいはこうした餌の関係によって飼育の難しい種を無理に飼おうとすることはヘビ、飼育者ともに不幸な結果となる可能性があります。
命を扱う趣味では常に、ある種の矛盾から目を避けることなく向き合う姿勢が重要なのではないか、私はそう考えています。
3.ムカデやヤスデを食べるヘビ
特殊な動物に餌の嗜好が寄ったヘビの生息域を見ると、比較的彼らにとって ”過酷な環境” であるらしいことがわかります。
おそらく、こうした過酷な環境において餌を求めて長距離移動しなくてもいいよう、身近にいる餌動物を食べているうちに極端な偏食家となってしまったのではないか。
もちろんしっかりとした裏付けのある説ではありませんが、そのような可能性さえ感じられるような過酷な環境に、特殊な餌を食べる種が集まっているようです。
砂漠あるいは荒地に住むヘビの中には、ヤスデを食べる種がいます。ヤスデは比較的強い毒を分泌する種もいますが、その毒に抗体があるものと思われます。
アフリカや中東が原産のサソリにもヤスデを好む種は多いようですが、飼育下でヤスデを定期的に、まとまった数用意することは難しいでしょう。それを考えると、ヤスデに餌の嗜好が偏ったヘビを飼育することは容易ではないと考えられます。
一方で、ムカデを食べるヘビは意外に少なくありません。飼育できる種ではありませんが、ニホンマムシを始めとしたアジア原産のマムシ類にはムカデを好むヘビが多いようです。また、日本産のヘビではヤマカガシやシマヘビ、マダラヘビの仲間もムカデを好んで捕食します。
そのほかの雑食性のナミヘビ類でも、与えればムカデを食べる種は少なくありません(ヘビとムカデそれぞれのサイズにもよりますが、冷凍・解凍したものを与えることでムカデからの反撃による外傷の予防などになります)。
ムカデは栄養価、カロリー値ともに優れており、ヘビの餌として優秀な餌動物です。
また餌の入手性という点においても、いるところにはまとまった数がいますし、特にオオムカデ属(scolopendra)であればオークション等でも恒常的に販売されていることから障壁となることは少ないでしょう(ただし捕獲、購入のいずれの場合でも最低1カ月程度は自家で飼育して "体内のデトックス" をした方がよいでしょう )。
餌のムカデにおける懸念点としては、彼らの身体が堅いキチン質に覆われており、見た目の通り消化がよくないという点です。
したがって、給餌スパンを詰めて与えるなどすると即座に消化不良を起こします。
ムカデに嗜好がかなり寄ったヘビとしては、ラテンアメリカ産のクロオビヘビScolecophis atrocinctusや、アフリカ原産のムカデクイヘビAparallactus capensisなどがよく知られていますが、これらのヘビにおいても、少なくとも餌を2週間より詰めて与えると潜在的に消化不良の危険があります。
特に気温の下がる時期には注意が必要で、もし数カ月の長期にわたって餌を食べなくても(ラテンアメリカなど熱帯・亜熱帯産のヘビでは日本で飼育した場合には10月頃から翌年の4月くらいまで餌を全く食べないことも珍しいことではありません)、特にムカデを与えているヘビの場合には絶対に強制給餌・アシスト給餌などをしてはいけません。
4.ナメクジやマイマイを食べるヘビ
これらの陸生貝類を餌としているヘビは、比較的流通に乗りやすく、定期的に爬虫類専門店の入荷情報で紹介されているのを見ます。
しかし、これらに嗜好が偏っているヘビは最も飼育が困難な種の1つだと言えるかもしれません。
その最大の理由は定期的、かつ十分な餌の供給が難しいという点にあります。
ミミズと異なり、自家飼育によって大量に増やそうと考えた場合でも、彼らは意外に寿命が長く、ヘビの餌として十分なサイズになるまでに1年以上かかることも少なくありません。
餌はミミズと同様、やわらかくて甘いものが好きな他、殻の形成のためにカキ殻やイカの甲を食べるなど、決して退屈ではなく非常に興味深い飼育動物なのですが、ヘビの餌としては使い勝手がいいとは言えません。
また、これら陸生貝類を餌としているヘビは餌の融通性も低く、他の餌動物はかたくなに食べてくれないということがほとんどです。
ネズミなどにリードすれば消化不良により死亡、という結果は火を見るより明らかですので絶対に避けたいですが、たとえ無脊椎動物であっても食べることはおそらくないでしょう。
こうしたことを考えると、長期あるいは終生、そして累代にわたって飼育することは非常に困難なヘビの1つだということができると思います。