消化器官の休養日
ヘビが餌を食べてから消化、排泄するまでに要する期間はどれくらいでしょうか。
餌の種類や時期(温度や光量)、ヘビの種や年齢、あるいはその時の体調などにもよりますが、成蛇であれば年間を平均すると概ね4-5日程度で大半の栄養価を消化吸収、さらに1-2日かけて排泄に至るというのが正常な状態だと考えられます。
したがって摂餌から排泄までの期間はおおむね1週間程度というのが目安と言えるでしょう。
摂餌から排泄までのサイクルがこれよりも著しく早い、というようならケージ内の温度設定に異常があると感じられます。すなわち異常に温度が高く、同時に代謝も異常に高いということが考えられます。
これは相対的に寿命を縮めることになりますので、潜在的に無視できない危険をはらんでいると言えるでしょう。
ちなみに、ボアやニシキヘビなどでは意図的に排泄物を体内に溜め込むことがあるという記録があります。
ある程度の数の記録を集めた信頼のおける論文を見たわけではないので、実際にそのようなことが可能なのかどうかについては定かではありません。
しかし、一部の記事ではアフリカに生息しているパフアダーBitis arietansというクサリヘビの一種が、身体を放り出すための "錨" の役割をさせるために糞を溜め込んでいるなどというユニークなものもあります。
これらが事実かどうかはわかりませんが、いずれにしてもあくまで特殊な事例だと言えるでしょう。
飼育書などにおいては、時に "排泄を確認したら次の給餌を行う" というような記事を見ることがあります。
しかし、これはヘビの消化器官に大きな負担を強いる給餌管理です。
ヘビだけではなく、人においてもそうですが、消化器官に常に(連鎖的に)食物がある状態というのは決して望ましいものではありません。
この状態は、言うなれば "常に消化器官が働いている状態" ということです。消化器官とて休みが欲しいですし、休ませてあげることで次の仕事を正常にこなすことができます。
排泄を確認したのち、直ちに次の餌を食べるとなると、こうした休養期間が全くない状態になります。そうなると、当然消化器官の疲労、老化は早まります。
結果的に寿命は縮まる傾向となるというわけです。
もちろん、個体によってはこうしたストレスに強いものもいるでしょう。しかし、それはあくまで "たまたま" 強かったというだけであり、飼育管理者としてはできるだけストレスの少ない給餌管理をする必要があることは言うまでもありません。
休養期間の目安は
では、休養期間はどれくらい設ければいいか、ということですが、結論から言えば、摂餌〜排泄までのサイクルと同じだけの休養期間を与えてあげること。
これが基本となります。
したがって多くのヘビについては、成蛇においては排泄後1週間程度の "消化器官の休養期間" を設けてあげるとよいでしょう。
ただし幼蛇については、集中的に栄養補給をする必要があるので、例外的に短い給餌間隔で餌を与えても問題ありません。
ただし、排泄を確認してから1-2日は間隔を空けたほうがよいので、概ね3-4日に1度の給餌スパンというのが一応の正常な目安と言えるでしょう。
難しいのは先にあげたボアやニシキヘビなどで、糞を体内に意図的に溜め込むかどうかの問題とは別に、飼育下では自然下と比較して相対的に運動量が少ないことから餌の要求量は大変少ない傾向があります。
したがって、環境によっては摂餌〜排泄までに最大で数カ月〜半年程度要することもあります。
ではその後、同様に数カ月〜半年程度かけて消化器官の休養をした方が良いかというと必ずしもそうではないこともあります。
これも種によりますが、ボアやニシキヘビは一部のナミヘビなどと比較して動きが少ないことから性格が大胆であると誤解されることが多いようです。しかし、印象としては彼らの多くはむしろ臆病な性格をしており(個体によっては激しく飛びかかってくるものもいます)、そのことが体重と比較した際の餌の要求量の少なさにつながっているものと推測されます。
ボアやニシキヘビの適切な飼育環境については改めてご紹介したいと思いますが、彼らの給餌における注意点としてはとにかくストレスのない環境設定を構築してあげること、これが何よりも重要だと言えます。
その上でももちろん、消化器官の休養は必要です。特に彼らの餌として与えられるものは鳥類や哺乳動物が多く、決して消化の良い餌とは言えません。したがって消化器官の負担も大きいということになります。
これを考えれば、あくまでも目安としての数字とはいえ、消化器官の休養期間は最低で14日から20日程度は必要だと考えられます。
消化器官をいたわることで寿命は伸びる
今回は給餌間隔の考え方と関連して、"消化器官の休養期間" というテーマでご紹介しました。
ヘビが餌を食べる様子は大変興味深いものですし、餌を与えるという作業は彼らを飼育する上での大きな楽しみの1つだと言えるでしょう。
しかし彼らの摂餌の様子を見ていると、仮に身体のサイズと比較して小さな餌であっても "頑張って" 餌を嚥下し、"苦労して" 餌を消化している様子がわかります。
ヘビにおいては、餌からの栄養吸収効率が非常に高いようで、食べた餌と比較して排泄物は非常にわずかです。それだけ消化器官は大きな働きをしているということでしょう。
それだけに消化器官を大切にしてあげることは非常に重要で、印象としては寿命と直接的に関係していると感じられます。
ヘビの給餌管理においてはどんな餌を与えるか、どれくらいの給餌間隔で餌を与えるかということに加え、いかに消化器官をいたわった給餌を行うかということについても意識していただけると良いと思います。