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大人のためのクリスマス本

ああ、クリスマスか。

朝の情報番組での「3日連続クリスマス特集!」。
外出した時に建物や木々に巻かれている電球。
スタバの紙カップの赤色。
日常を過ごしているだけで、それは強く意識させられる。

もう部屋を飾りつけたり、プレゼントを何にしようかと考えたり、ケンタッキーかモスチキンか予約したりすることはなくなった年齢だけど。
(たぶん年齢じゃなくてね、性格だよね。私の場合)
見渡した時に視界に入るものたちに「クリスマス、もうすぐですよ!」と主張されるたびに、「そうだった」と少し宙に浮いた気持ちになる。

何もなくても、しなくても、明るい世間に浮き足立つ。
クリスマスって楽しいね。

今年は特に仕事を辞めてのんびりさせてもらっているので、穏やかにこの季節を迎えられそう。

そう思ったら、私なりのクリスマスを楽しもうではないか。

本棚を見渡す。
寒い日こそ読みたい本がある。
夜が濃い冬にこそ、人が人と灯りを見つける物語を。

私の本棚は、ここ数年あまり更新されていない。
図書館を利用することが増えたり、実際にあまり読めていないから。
あと、結局好きな作品を何度も読み返すから。
心の琴線にふれればその一文を台詞を覚えてしまうくらい読む。
しかもその感動をよりよく味わうには、やはり一から読みたい。
山の頂点にヘリコプターで到着するよりも、一歩一歩登ってそこに辿り着きたい。
意外と新しい発見もある。
そう何度も読みたいと思える本はたくさんない。

そして味わい尽くした冬の本。
Instagramでは以前、クリスマス本として紹介したことがある。

かぶってしまうし、どちらも古く知っている方も多いだろうが。
どうか許してほしい。

週末は彼女たちのもの /島本理生

以前の記事で、恋愛観を歌手のaikoで語った。
私が憧れ、そして知った恋愛感情を投影してきたのがaikoの音楽なら、小説なら間違いなく島本理生さんだ。

初めて読んだのは「ナラタージュ」だったか、「シルエット」だったか、何がきっかけで手に取ったのかはもう覚えていないけれど、島本さんの描く女性の感情とその文章の美しさと、恋愛模様に胸を打たれた。
元々収集癖も背を押し、島本さんの作品ばかり文庫本を貪り読んだ時期がある。

たくさん、好きな作品がある。
その中でもこの作品は、某広告に連載していたショートストーリーを一冊まとめたものであり、とても読みやすい。
一話が短く、語り手が変わっていき、各話がつながっているオムニバスストーリー。
文庫文の裏の紹介文にはこう書いてある。

「いつでも、どこでも恋は生まれる。臆病なあなたに贈る、人を好きになることのときめきと切なさに溢れた短編集。」

衝撃な展開もあるわけじゃない、想像もできるし、あっという間に読んでしまえるだろう。
もしかすると熱心な読書家であれば、物足りなさを感じるかもしれない。
それくらい一話が短いし、
だがそれを、寝る前に一話ずつ読んでいくのがいい。
そしてクリスマスを迎えるのが理想だ。(もう間に合わないけどね)
シンプルな文章で展開が進んでいく中で、ふと恋が顔をだす。
きゅっとするような表現に、登場人物と同じようにこちらもドキドキしてしまう。

クリスマスにサンタを待って胸を鳴らすのは子どもだけじゃない。
大人だって、期待する。
街の灯りがやたら人を、自分を照らす。
赤。緑。金。銀。
いつもと違う光fが、特別に魅せるのだろうか。

クリスマスになると、この本を開きたくなる。

すべて真夜中の恋人たち /川上未映子

この本と、川上未映子さんという作家に出逢ったのは、某バラエティ番組で紹介されたことがきっかけだった。

その頃の私の読書といったら、とても狭い世界で生きていた。
今よりもSNSを見る時間は少なかったし、周りに読書をしている人もいなかったし、本を特集している雑誌を買うくらいならそのお金を好きな本に注ぎ込む方がいい。そう思っていたから。

今ではたまに図書館を利用するけど、図書館で本を借りると当然のことながら返却期限がある。
期限を設けられると、借りたはいいが仕事しながらだとどうも読もうと思えない日があったりして、それを責められている気がして、窮屈に感じる。
そんな思いから当時は図書館に足を運ぶことは滅多になかった。

つまり、本を読むなら買うしかない。
失敗したくない。
一冊1500円程度の買い物は、20代、小さいようで大きい。

そうやって保険をかけるあまり冒険する思考には至らず、好きな作家の新刊ばかり買って読み、視野が狭まっていた私にとって、その番組は読書の幅が広がる大きなきっかけを与えてくれた。

毎週録画していたバラエティ番組。
その日の放送内容は読書好きな芸人がおすすめの本を語るという。(ここまで言えば何の番組かはもうわかりきってしまうのだが)
わくわくして、いつもは録画するのにリアルタイムで正座して観た。

自分が好きな本だけ読んでればいい、と思う私でも、なにも真っ向から他人の嗜好を知りたくないっと突っぱねているわけでなかった。
他人が良いというものを知るためにお金をかけたり、世間一般に積み上げられた本を選ぶくらいなら、自分が好きな本を読めばいいと考えるだけだ。

友人や知り合いの趣味の話を聞くのは楽しいし、誰かの家を訪れてもし本棚があれば並ぶタイトルを眺めたい。
横断歩道、赤信号で立ち止まる人々の中、隣の人がイヤホンをはめて音楽を聴いている、その小さくリズムをとっている指先を見たら何を聴いているのか気になる。願わくばそのプレイリストを覗きたい。
好きなこと、本、音楽、映画、それは人の頭の中だ。
人をまったく意識しないなんて無理で、それが自分の興味の範囲だと尚更。
面白くないなんてことは、ない。

番組が始まり、冒頭から画面を食い入るように観た。
そこで紹介されていた本の一冊が、「すべて真夜中の恋人たち」だ。

この本を勧めた芸人が、その時確かこう言っていた。
「最初の1ページだけでもいいです。めくって読んでみてください」

1ページだけ、か。

読書をする人は、何を基準に本を選んでいるだろう。
話題性。ジャンル。背表紙。書評、などなど。
人によってそれは違うし、きっと明確に決まってもないだろう。
当時の私は繰り返すが、基準は作家だった。
書いている人間が同じだと、好きな文章の癖や表現が裏切られることが少ないから。

でも、この時初めて、人が勧める本を読んでみようと思った。
1ページだけ開くなら、しても良いかも。

そうして翌日本屋に寄った。
すでにコーナーには番組で紹介された選書が積まれていた。

しっかりとした作りの単行本を持ち上げ、表紙を開いた。
少し厚手の白い紙があり、めくる。
表題がある。
それをめくる。
右側のページは銀色、左にはまた、表題。
また、めくる。

やっと文字が現れた。

明朝体が右から順に程よい行間をあけ、空白を埋めている。

左下には、3、と番号がふられている。

さっと文章を読んで、そしてもう一度、今度はゆっくり読んだ。

「最初の1ページだけでもいいです」

その意味がわかった。
初めて出逢う、美しい文章だった。

これまでももちろん出逢ってきたけれど、そのどれもと違う。
たった1ページ読んだだけで、私にとってこの本はとても大切な本になる予感がした。
閉じ、表紙を撫でて、そのまま会計に向かった。

内容は、人付き合いが苦手な主人公がとても年上の男性に恋をする。
その静かな始まりと、終わりまでが、とても美しい文章で丁寧に描写されている。

物語の最後に表題が登場した時、なんだろう。
込み上げる、いいようない気持ちが心地よくもあるが、切なさもある。
気づかないうちに手の関節部分が裂けて血が滲んでいて、その赤を見た時ににぶく痛みを認識してしまうような。
ふと、大切なひとの何気ない言葉に笑い返した後のわだかまり、どこか自分をも届かないところでうっすらと傷ついているような。
見なくてもいいのに、知ってしまった感情の、後ろめたさのようなもの。

この物語はクリスマスを題材にしているわけではない。
ただ、主人公の趣味は誕生日の真夜中に散歩することで、そこで夜にしか見つけられない光を数える。
それが何度も言うが本当に美しく描かれていて、どの夜だって光っているものは変わらないはずなのに、やたら目につく冬のこの時季に私はこの物語の1ページ目を思い出す。
そしてそのまま、主人公の恋をなぞってしまうのだ。

もし読んだことがある人なら、きっと共感してくれると思う。
読んだことがなくて興味を持った人がいたら、本屋でぜひ文字通り1ページだけ読んでみてほしい。

余談だが、この本は物語さながら、装丁がまたとてもいい。
私の本を選ぶ基準の中で「装丁」が追加されたほど。
表紙も、カバーを外した姿も、行間も文字の大きさもすべて。
本を彩り、引き立てる。
そのすべてが本の一部で、とても重要視するべき点だと気づいた一冊でもある。

◇ ◇ ◇

クリスマスに読みたい本。
もう何冊かあるけれど、今回はこの辺で。

次はバレンタインデーにでも、かつて選書した本をまた引っ張り出すか、最近読んだ中で好きなものがあれば、この場を借りて語ろうかと思う。
好きだった本を思い出すいい機会にもなるし。

素晴らしいと感じた作品は、創作意欲にもつながる。

創作なんて、そんな大それた小説や詩を私は生み出せる気はさらさらない。
ただ、今回あげた2冊を読んだのは確か同時期で、それを読んで感じた何かを私なりに発散したくなったのはこの頃だ。
感想を短くわかりやすく内容にあまり触れずに文にすることはきっと修行が足りなくて上手く出来なくて、それでも表現したくて思うままに言葉にしたら、それは感想じゃなくて創作のようなものになった。
その言葉を、昔、Instagramで綴ったそれを、スクロールの先にのせて終わりとする。

最後に。
クリスマスは特別だということは、大人になっても変わらない。
歳を重ねかたちは変わっても、私たちの胸は高鳴る。

少し早いけれど、メリークリスマス。

良い聖夜を。





*

今夜は、すべての真夜中が特別。

隣にいられなくても、その距離が、だんだんと離れていっても、聖なる夜は何かを期待させる。
眠れない、子どもみたい。

あの人にとっても、もちろん特別であってほしくて、誰と何処にいてもいいから街の装飾やツリーの電球に負けないほどの光が、どうか、降り注ぎますように。
私には時間を下さい。
ゆっくりと優しく、雪解けのように、あの人を忘れるための。

サンタさん、いい子にしてたでしょう。
ひとりの夜も泣かなかったし、会いたくても我慢した。

ねぇ、もう、充分でしょう。

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