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【書評】 想いはこうして紡がれる――「古着を燃やさないまち」を実現した33年の市民活動を通して伝えたいこと

想いはこうして紡がれる――「古着を燃やさないまち」を
実現した33年の市民活動を通して伝えたいこと


ゴミ袋の中から未来を掘り起こす ー 古着リサイクルが変えた街と人々の物語



福島県いわき市の古着リサイクル率90%という驚異的な数字は、全国平均の34.1%を大きく上回り、環境先進都市としての同市の存在感を示しています。

しかし、この成功の裏には、1990年に設立された特定非営利活動法人ザ・ピープルによる、実に30年以上にわたる地道な取り組みがありました。

本書は、まだNPOという言葉すら日本に定着していない時代に、一人の主婦の気づきから始まった市民活動が、いかにして32万人の街全体を変容させていったのかを、詳細に記録しています。

活動の発端は、1990年にいわき市が派遣した海外視察団「第一回いわき女性の翼」にまで遡ります。

当時、女性の社会参画という新しい課題に直面していた日本社会において、この視察団は画期的な試みでした。

参加者たちは、予定された研修以外にも、街角で目にした資源ごみ用のリサイクルボックスなど、様々な気づきを得ます。

この経験を地域に還元したいという思いから生まれたのが、ザ・ピープルでした。

本書が特に注目に値するのは、市民活動の持続可能性について、極めて現実的な視点から描き出している点です。

当初は無償のボランティアとして始まった活動が、古着の回収量が年間10トンを超える規模に成長する中で、スタッフの有償化という決断を下していく過程が克明に記されています。

この決断は、理想と現実のバランスを取りながら、活動を継続させていくための重要な転換点となりました。

また、古着リサイクルの「出口」問題への対応も注目に値します。

バブル経済崩壊後、地域の古物商が故繊維の取り扱いを停止し、むしろ処理費用を要求されるという事態に直面した際、新たな販路を開拓していく柔軟な対応力は、社会起業家として極めて示唆に富むものです。

現在では、年間約260トンの古着を、以下のような多様なルートでリサイクルしています:

  1. 状態の良い古着は地域内でのリユース販売

  2. 木綿素材の工業用ウエスへの転換

  3. 「反毛」工程による繊維の内装材活用

  4. 海外支援品としての活用

  5. リメイク品の素材としての活用

さらに、本書の価値を高めているのが、東日本大震災後の新たな挑戦の記録です。

地震・津波による自然災害と原発事故という人為的災害の両面に見舞われたいわき市において、ザ・ピープルは「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」という革新的な取り組みを開始します。

放射能汚染による耕作放棄地の活用と、被災者・避難者間のコミュニティの分断という二重の課題に対し、オーガニックコットンの栽培から製品化までを手がけることで、新たな交流の場を創出したのです。

本書は、市民活動における「意識改革」の重要性も強調しています。

古着を「ゴミ」ではなく「寄付」として捉え直すという概念の転換に、実に30年という歳月をかけて取り組んできた過程は、社会変革の本質的な困難さと可能性を示唆しています。

回収ボックスのデザイン改良から、市民への継続的な啓発活動まで、きめ細かな取り組みの積み重ねが、現在の高いリサイクル率につながっているのです。

本書の特筆すべき点は、単なる成功事例の紹介に留まらず、活動の過程で直面した様々な課題や、その克服のプロセスを丁寧に描き出していることです。

障がい者の就労支援や海外支援事業への展開、震災後のコミュニティ再生など、活動の領域を徐々に広げていく過程で、組織が直面した困難と、それを乗り越えるための試行錯誤が詳細に記録されています。


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本書を読んだ感想として

本書を読み進めながら、私が最も心を打たれたのは、「変革」というものの本質的な性質についての深い洞察でした。

社会を変えるということは、華々しいイノベーションや劇的な転換ではなく、むしろ地道な積み重ねと、時には「地味」とも見える持続的な取り組みによって達成されるという事実が、本書全体を通じて説得力をもって示されています。

特に印象的だったのは、古着リサイクルという具体的な課題に取り組む中で、組織が直面した様々な決断の場面です。

無償ボランティアから有償スタッフへの転換、古着の新たな販路開拓、震災後の新規事業展開など、その都度、理想と現実のバランスを取りながら、最適な判断を下していく過程には、現代の社会起業家たちが学ぶべき多くの示唆が含まれています。

また、市民の意識改革にかけた時間の長さにも、深い感銘を受けました。古着を「ゴミ」ではなく「寄付」として捉え直すという、一見シンプルな概念の転換に30年という歳月をかけ、地道に啓発活動を続けてきた忍耐強さは、社会変革に取り組む人々に重要な示唆を与えています。

この「急がず、諦めず」という姿勢こそが、持続可能な社会変革の核心であることを、本書は雄弁に物語っています。

さらに、震災後の対応における柔軟性と創造性には、深い感動を覚えました。

原発事故による放射能汚染という前例のない事態に直面しながらも、オーガニックコットンという新たな挑戦を通じて、分断されたコミュニティの再生に取り組んでいく姿勢は、危機を機会に変える社会起業家精神の真髄を示しています。

本書が描き出す30年以上の軌跡は、社会変革が決して一朝一夕には成し遂げられないことを教えると同時に、地道な取り組みが確実に実を結ぶことの証左となっています。

現代のSDGsや社会的企業の文脈においても、極めて示唆に富む事例として、本書は高い価値を持っているといえるでしょう。


本書を特におススメしたい人

・社会起業やNPO活動の立ち上げを考えている方
・環境問題や地域活性化に関心を持つ実務家や研究者
・市民活動やボランティアのリーダーを目指す方
・持続可能なビジネスモデルを模索している社会起業家
・震災復興や地域再生に携わる行政職員や実務家
・SDGsや環境問題に取り組む企業の担当者
・地域コミュニティの再生に関心のある方
・女性の社会参画や市民活動に興味のある方
・大学でソーシャルイノベーションを学ぶ学生
・環境教育や市民教育に携わる教育者


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本書のまとめ

本書は、一市民の気づきから始まった活動が、いかにして街全体を変える力となっていったのかを描いた実践的な記録です。

1990年代初頭、まだNPOという概念すら日本に定着していない時期に、一人の主婦が「できること」から始めた活動は、現在では年間260トンもの古着を処理し、90%という驚異的なリサイクル率を実現するまでに成長しました。

古着リサイクルという具体的な課題に取り組みながら、市民の意識改革、持続可能な事業モデルの構築、そして震災後の地域再生まで、社会変革の本質的な要素を余すところなく提示しています。

特に、無償ボランティアから有償スタッフへの転換、販路開拓の工夫、震災後の新規事業展開など、組織運営における現実的な判断の積み重ねは、これから社会課題に取り組もうとする人々に具体的な指針を与えてくれます。

30年以上にわたる活動の軌跡は、社会変革が決して一朝一夕には成し遂げられないことを教えると同時に、地道な取り組みが確実に実を結ぶことの証左となっており、現代のSDGsや社会的企業の文脈からも、極めて示唆に富む事例として高い価値を持っています。


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callege motib
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