【書評】 100歳まで脳は成長する記憶力を鍛える方法
本書は、記憶の不確かさや過誤について、様々な実験結果やエピソードを交えながら解説した脳科学書です。
著者の加藤俊徳氏は、医師として長年に渡りMRI脳画像診断に携わってきた第一人者であり、記憶の分野でも権威があります。
本書の主な内容は、以下の5点です。
幼年期の記憶は作り話 私たちが持っているはずの幼年期や乳児期の記憶は、実は脳が情報の断片を繋ぎ合わせて作り上げた架空のものである可能性が高いということです。記憶は脳の発達段階によって制限されており、幼児期に本当に経験したことを成人になって鮮明に思い出せるわけではありません。
記憶には環境が影響する 物事を覚えるときの環境や覚醒度が、思い出す際の環境や覚醒度と一致していると、記憶がよりはっきりと蘇ります。ストレスなど内的環境と、外的環境の両方が記憶に影響を与えることが実験で示されています。
完璧な記憶は存在しない 記憶力に秀でた能力を持つ人々がいますが、自伝的記憶か特定分野の記憶力が非常に優れている場合が多く、完璧な記憶を持つ人間はいません。忘却は脳が最重要情報のみを取り残す効率的な仕組みでもあります。
過誤記憶が形成されやすい 実際に経験したことがないのに、まるで本当に体験したように感じる「過誤記憶」が簡単に形成されてしまいます。警察の取り調べなどで過誤記憶が生じると、重大な事態を招く可能性があります。
社会環境が記憶を歪める ソーシャルメディアなどの現代の環境は、人々の記憶をさまざまに歪める可能性があります。
本書を読んだ感想として
本書を読んで、これまで疑わずに信じてきた自分の記憶への確信が大きく揺らぎました。
実に多くの事例が挙げられており、記憶の曖昧さや不確かさに目を見張らされます。
私たちが日常的に経験しているありふれた出来事の記憶でさえ、実は作り話である可能性が高いのは衝撃的でした。
一方で、そのような記憶の性質を前提とすれば、過去にとらわれずに現在に集中することの重要性が伝わってきました。
過去を完全に思い出せなくても、今この瞬間を確実に生きることができれば良いのだと気付かされます。
記憶について深く学べば学ぶほど、私たち人間の認知プロセスの不思議さと制約が明らかになってきます。
しかし同時に、記憶の曖昧さを受け入れ、上手く付き合っていく術も見えてきます。
本書は人間理解の新たな扉を開いてくれる良質な一冊だと感じました。
本書を特におススメしたい人
・心理学や脳科学、認知科学に興味がある人
・記憶力や思考プロセスについて理解を深めたい人
・人間理解を追求したい人
・記憶を上手に活かす方法を探している人
本書とあわせて読みたいおススメの書籍
・『アタマがみるみるシャープになる! 脳の強化書』加藤 俊徳 (著)
・『片づけ脳──部屋も頭もスッキリする! 』加藤 俊徳 (著)
・『「忘れっぽい」「すぐ怒る」「他人の影響をうけやすい」etc. ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング" 』加藤 俊徳 (著)
本書のまとめ
本書は、医師であり気鋭の脳科学者である加藤俊徳氏による解説書です。
加藤氏はこれまでに1万人以上のMRI脳画像解析を行ってきた第一人者であり、NHKの番組も監修するなど、脳科学の権威としても知られております。
本書の中心テーマは、記憶の実態と脳との関係についてです。
私たち人間は、過去の出来事を正確に思い出せていると考えがちですが、実は間違った記憶、いわゆる「過誤記憶」を形成してしまうことが多々あるのだそうです。
特に感情的な出来事や衝撃的な体験については、創造的で適応力のある記憶システムが過剰に働き、本当はなかったことを経験したかのように記憶を作り上げてしまう可能性が高まるそうです。
このような過誤記憶により、目撃者の証言に基づいて無実の人に不当な有罪判決が下されるケースも後を絶ちません。
本書では、そうした過誤記憶のリスクを認識し、記憶の正確性を過信しないことの重要性が説かれています。
一方で、記憶の不完全さには意味があり、忘却のおかげで脳が効率的に最重要情報だけを貯蔵できるようになっている、というユニークな視点も提示されております。
さらに本書の大きな魅力は、脳を活性化させるエクササイズ方法が多数紹介されている点にあります。
簡単に日々の生活に取り入れられる方法ばかりですので、ビジネスパーソンの方はもちろん、老若男女を問わずどなたでも実践していただけると思います。
このように、本書には脳と記憶に関する貴重な知見が凝縮されており、自分自身や大切な人への気づきの機会が満載です。
引用論文も新しいものが多数収録されていますので、脳や記憶についてより深く学びたい方にもおすすめの一冊と言えます。
Amazonのオーディオブック
Audible会員なら
12万以上の対象作品が聴き放題
最後までお読みいただき、ありがとうござい ました。よろしければ、フォローと「スキ」(❤)を お願いします!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?