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緑のスカートの代理先生|エッセイ


小学校一年生の途中だったと思います。
担任の先生が産休と育休に入り、代理の先生が来ました。

もちろん当時の私よりも背は高いのですが、華奢で、作りの小さな女の人です。
緑色のスカートが良く似合っていて、少しウェーブのかかった黒髪は肩にかかるくらいでした。
産休に入った先生よりも若かったように思います。

その先生が、ある日、私を呼び止めて
『勉強も運動も良くできているから、もっと自信を持って良いのよ』
というようなことを言ってくれました。
引込み思案だった私に、授業中にもっと手を挙げ、委員や係に立候補をして欲しかったのだと思います。

人に褒めてもらうことの無かった当時の私は、それが心から嬉しかったのです。

体育の授業の前だったと思います。
先生が、教室で着替えを始めました。
着替えと言っても、Yシャツの上からトレーナーを着て、その中でゴソゴソしてYシャツを脱ぐという程度のことです。
先生にとっては、一年生の前ですることに何の抵抗も無かったのでしょう。

それをジッと見ていた私に気づき
『あら、ズボラなところを見られちゃったわね』
というようなことを言って笑っていました。


二年生になってもクラス替えがなく、先生も変わりませんでした。
私は、"代理の先生" であることをすっかり忘れていました。

二年生の何学期だったかは忘れましたが、元の先生が育休から復帰するらしいという噂を聞きました。
ゾワゾワとしたものを内側に感じました。


その時は、あっさりとやって来ました。
先生はクシャクシャに泣いていました。
私は泣かなかったけれど、喉がキュウっと硬くなっていました。


私は三年生のお正月に、先生へ年賀状を書きました。
三年生では立候補をして委員長になったので、それを伝えたかったのです。

それなのに待っても待っても年賀状の返事が来ません。
新しい学校の生徒がかわいくて、私のことなど忘れてしまったのかと悲しくなりました。

一月も終わりに近づいた頃、先生から普通ハガキで返事がありました。
それは、私が出したところと違う、全く知らない住所から届いたハガキです。
『先生は引越していて、年賀状を受け取るのが遅くなりました』
というような説明から始まり、返事が遅れたお詫び、私の成長を喜ぶような文章が綴られていました。
しかし、先生の近況は何も記されていませんでした。


私が大人になり、教師が産休や育休に入る際、どのような仕組みで代理の先生が来るのかを知りました。

先生が、当時どのような状況にあって引越したのか、その後がどうであったかを知る術はありません。

ただただ優しい眼差しを思い出して、私の背中をそっと押してくれたことに感謝するのです。

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