精神科 救急急性期病棟への入院 #6
※前回はこちらです
この世の果てにもどる
昨日はあんなことがあったから、開放時間になっても廊下に出るのはやめることにした。話しかけられて無視するのも失礼だし、かと言って話すと昨日みたいなことになるかもしれない。そう思うと人に会うのが嫌になった。
知らない人から矢継ぎ早にいろいろ聞かれて「まぁ、いろいろあって」とか言っておけばお茶を濁すことぐらいはできたかもしれない。でも、何も言わずにその場を立ち去ることがその時の私にできた精一杯の抵抗だった。
その人からすれば、ただ普通に話をしたいだけだったのかもしれないけれど、知らない人の家のチャイムを鳴らして、すぐにその人の家に上がり込むなんて、私にはそんなことはできないし、人にされたくもない。
精神科に入院をするのは初めてで、きっといろんな人がいるんだろうなというのはなんとなくだけど想像はできた。きっと、ごくごく普通にお話ししてくれる人もいるのだろうし、そういう人と出会えたらいいのにな、とも思ってた。
こんなこと、早く忘れようって思ったけど、あの人のニヤニヤした顔と声がずっと頭から離れない。
まあ、いいや。あの人とずっと一緒に過ごすわけじゃないし、どちらかが退院すればもう二度会うことはないだろうし。ふん、勝手にしろ、バカ。
そう思えるまで2日ぐらいかかった。
退院が近いと勝手に思う
それから数日の時が流れ、部屋からは全く出ない私でしたが、それでも開放の時間が少しずつ伸び、10:00~12:00迄だったものが数日後には10:00~15:00になり、その数日後には10:00~17:00になり。
その間、保護室から普通の病室へと部屋移動になり、気分もそれなりに安定。部屋から全く出ないのに、開放時間がどんどん延びていくというのはいったいどういうことなのか。これはきっと、そろそろ退院が近いんだなと勝手に思い始める。
帰ったらすぐ観葉植物に水をあげなきゃ…
洗濯もしなきゃ…
お散歩とかもしたいな…
私、この時点では3か月間の入院になるとはまったくもって1mmの予想すらしておりません。長くてもせいぜい1ヶ月ぐらいだろうと思ってました。
基本ネガティブ思考なのに、この時はなぜか超楽観的…
普通の病室と言っても、開放時間が終われば部屋に戻され、翌日の開放時間になるまでドアの施錠があります。所謂「隔離室」呼ばれている個室です。とは言え、私は開放時間でも部屋からは出ないので、鍵を閉められたところで何の不都合もありません。
はじめての外出許可 そして生々しい現場
この数日前ですが、ケースワーカーさんが付き添ってくれて自宅に一度戻りました。このタイミングで外出の許可が下りるケースは非常に珍しいと言われましたが、なにしろ初めての入院なのでそこらへんの相場観がサッパリわかっていません。付き添って下さったワーカーさんには本当に感謝です。
あの日以来、自宅がどうなっているんだろうとずっと不安に思ってたけど、玄関を開けるとちゃんと部屋の電気も消してあって、特に散らかっている様子はありません。家を出た時の記憶が無いので、電気は警察の方が消してくれたのかな…
見慣れた自分の部屋だけど、よく見るとテレビ台が少し動いていたり、テーブルやPCのモニタが動いていたり、ベッドの場所もズレている。キーボードの裏にある角度を調整する爪が折れていて、床に転がっていたり。
日頃から、家具等は全てフローリングの継ぎ目の線にピッタリと合わせてるから、部屋のいろいろなものがズレているのは明らかにおかしい状況。
全く覚えてないけど、自分が無意識に何かをしようとしていたらしいことはなんとなくだけど想像できた。体中がアザだらけで傷だらけなのは、なんとか歩こうとしてあちこちぶつかったり転んだりしたからなのだと…
そう思ったら、なんだか少し怖くなった。それと同時に、そんな状態でも自殺相談の窓口に連絡をして助けを求めた自分に「がんばったね」と言ってあげたくもなった。
部屋のドアノブには電気のコードがぐるぐるに巻かれてあって、なんとも生々しい痕跡が残ってる。それをワーカーさんが何も言わずに外してくれた。
さっと片付けをして、着替えとか、読みたい本とかスマホの充電器とか、シャンプー、洗濯の洗剤、その他諸々の日用品を持って病院へ戻る。
外出から戻り病棟の入り口に来ると、まず金属探知機を使って上から下まで調べられ、その次にボディチェックまであるから、隠して何かを持ち込むことはほぼ不可能。できることなら家にある全ての観葉植物を持ち込みたかった。
小野不由美はOKよ
病棟に戻ると、自分が持ち込んだ物のリストが作られ、看護師さんがひとつひとつにテプラで名前を貼ってくれます。
当然ながら紐が付いた衣類は一切禁止。洗濯物を入れようと思って少し大きめのトートバッグを持って行ったのだけれど、持ち手の部分が少し長いからという理由で看護師さんから却下される。普段はとっても優しいけど、こういう場合は超シビア。
衣類には全て油性ペンで名前を書き、持ち込むことが出来る枚数もある程度決まっています。※パンツ20枚とかは却下。
スマホと本(小説)は、先生の許可が出たら使えるようになるそうで、それまではナースステーションでの預かりに。
看護師さんが入念に一枚一枚チェックをして、リストに下着〇枚、靴下〇足、Tシャツ〇枚、充電器1個、シャンプー1個…量が多いのですごく時間がかかる。
持ち込んだ本はとりあえず3冊
「星野道夫 永遠のまなざし」小坂洋右、大山卓悠 著
「残穢」小野不由美 著
「日本のいちばん長い日」半藤一利 著
家には買ってまだ読んでない本、所謂「積読」がたくさんあったけど、なんとなく目に入ったのがこの3冊。そういえば、この3年間は本を読みたいなんて思ったこともなかったな…。
ヒグチユウコさんの絵本とか、さくらももこさんや、室井滋さんのエッセイとか、もうちょっと気軽に読めそうな本にすればよかったのに、どっちかというとヘビーで読み応えのある本ばかり。「日本のいちばん長い日」とか我ながら渋すぎる…。名作ですが。
小野不由美さんの作品は昔から大好きで、「残穢」などは特にホラー色が強い作品だから先生の許可が下りるかどうか心配だったけど、特に何もなくあっさりOKに。残穢は首を吊った話とかが普通に出てくるけっこうダークなストーリーで、文庫の表紙からして心霊感満載。
成人向け雑誌とか官能小説なんかは明らかに無理だろうって思うけど、それ以外の本の判断基準っていったいどうなっているんだろうって思った。
色々手続きがあって、すっかりお昼ご飯の時間が終わってしまっていたけど、私の分はラップをかけて取っておいてくれていて、食べる前にレンジで温めてくれました。その日はキーマカレーで、入院してから初めてご飯を完食しました。
日記を書き始める
それから数日後、先生からスマホの使用と本の許可が下り、病棟内のコインランドリーの使用許可も下りました。その頃には開放時間が7:00~19:00とかになっていて、ほぼほぼ自由な感じです。
とは言っても、あいかわらず部屋から出ることはほとんど無く、本を読めるようにもなったのでますます部屋に籠るようになる私…。トイレも部屋にあるからいつでも使えるし、食事も看護師さんが運んでくれます。
看護師さんからは「お昼はホールで食べてみたら?」って言われてたけど、人前でご飯を食べることが苦手な私にそんなことが出来るわけもなく、そもそもホールにさえ出たこともないのにどう考えてもそんなの無理難題。
スマホを使えることになったのは良かったけど、スマホを触る気に全くなれず。好きな音楽を聴く気にもならないし、特に連絡を取りたい人がいるわけでもない。だから持っててもほとんど意味がない。
でも、せっかく手元に便利なものあるんだからと思って、その日の出来事を毎日スマホにメモすることにしました。
今こうして入院中にあったことを綴れるのは、その当時にスマホで付けていた日記があるおかげです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回へ続きます。