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精神科 救急急性期病棟への入院 #10

※前回はこちらです


病棟の都市伝説

入院生活も1ヶ月を過ぎた頃。よく話をするようになった女性の方から、誕生日には「誕生日食」というちょっと豪華な食事が出るらしいという噂を耳にし、誕生日が近かった私は少しドキドキしながら日々のOTに励んでいました。

更に別の女性の方から追加情報があり、

誕生日の前に看護師さんから好きなものを3つ聞かれ、いつものご飯にプラスしてその3つが出るらしい。

産婦人科で「お祝い膳」が出るのは知ってるけど、ここでそんなことってあります?。精神科専門病院の急性期病棟ですよ。それって都市伝説的な話じゃなくて?。だって、ぜんぶ「らしい」って付いてるし…。

入院中にタイミングよく誕生日を迎えるなんてことはそう多くはないはずで、よく話すようになった女性の皆さんに聞いてみても

「え?、そうなの?」

と同じ答えが返ってくるばかり。

そもそも、私はずっと部屋でご飯を食べていたからそのようなケースに遭遇したこともないわけで。

ちなみに、この頃の私は奇跡的にホールでご飯を食べられるようになっており、隔離室に居た頃と比べると、アームストロングが月に舞い降りたぐらいの進歩であります。

但し、いつも決まった人と、同じテーブルで、対角線上に座らなければ無理な状態ではありました。

そんなこんなで誕生日が近づき、私は”もしも”の時のために好きな食べ物を3つ考えておきました。日頃から食に対する欲求があまりないので、食べたいものを絞り出すのに数日かかりましたけど…

・菓子パン系
・ハンバーグ
・甘いもの

この頃は甘いものに飢えていて、頭に浮かぶのはケーキとかシュークリームとかアイスとかそんなものばかり。いくら誕生日でも病院でスイーツ系は出ないだろと思いつつも、そのわずかな望みに賭けた私は「菓子パン+甘いものと」いうやや変化球的な2つのワードに思いを込めるという作戦を選んだ。

残りの一つはできればモスかマック的なハンバーガーが良かったけれど、甘いものよりも難易度高めな気がして無難にハンバーグを選択。

なんとかこの3つ絞り出したものの、もしひとつでも却下されると、あとは病院の栄養士さんにお任せ状態。好き嫌いはほとんどないけど、ドリアンとパクチーはやめてね。

時は流れ、いつでも心の準備はできていましたが、誕生日の3日前になっても、2日前になっても、いっこうに看護師さんが聞きに来る気配は無し。

「〇〇さん、ちょっといい?」

看護師さんからそう呼ばれ、ついに来たかと内心ドキッとしたけれど、呼ばれてついていくと何のことはない、先月分の請求書を渡されただけ。

もしかして、私、忘れられてるとか…。まあ、ずっと部屋から出なかったし、もともと私の存在自体がかなり薄目なのは自覚しておりますが…。

ある女性からは「コロナだから中止になったんじゃないの?」と言われ、

そんな、、、身も蓋もないこと言わなくても…

結局、前日もあっさりスルーされて、結局なにもないまま誕生日の当日に。

そして迎えた誕生日

誕生日の朝はいつもと同じご飯。あいかわらずの山盛りどんぶりご飯です。朝食はおかずの量とご飯の比率があまりにも違いすぎるので、なんとか頑張って食べても半分が限界。

朝の9時過ぎにホールでテレビを観ていると、病棟内で仲良くなった女性の皆さんが集まってきます。

女性陣の間では「コロナで中止になった派」が大多数を占めており、残り僅かの人が「きっと忘れられてる派」という、どちらにしても悲観的な結果に。

もしも出るんだとしたら、普通は夜ご飯だよね…

そう思って迎えたお昼ご飯の時、
配膳をしてくる看護師さんから

「〇〇さん、今日は誕生日食だよ。おめでとう!」


!?

予想外の展開で
周りで祝福してくれる人がいて

照れくさいけど、すごく嬉しくて
ちょっと泣きそうになる

少し落ち着いて、運ばれた料理を見ると、みんなと同じメニューにプラスして

・酢の物
・コーヒー

他にもう一品付いてきましたが、心拍数が上がりすぎて、何を食べたか覚えていません(その日の日記にも書いてなかった)。

周りのみんなは「誕生日に酢の物?」って言いながら笑ったり、「ほんとに出るんだね。よかったね」って言ってくれたり。周りのみんなの笑顔を見てていると、なんだか思わずほっこりしてしまう。

誕生日食には栄養士さん直筆のお手紙付き。このお手紙は今でも大切にしています。


最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回へ続きます。

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