母の話で恐縮です【第1回紅白記事合戦】
第1回紅白記事合戦、開催おめでとうございます!
赤と白にまつわるエッセイを、とのこと。私は瞬間的に「赤い霊柩車シリーズ」を思い出しました。というわけで、「赤のエッセイ」で参加します!
私の母の話をする。
母は、サスペンスドラマが大好きだ。私が物心ついたときには、私の中で「おかあさんは殺しのドラマがすき」というキャラ設定が確立していた。
彼女は当然ながら、火曜サスペンスだの土曜ワイド劇場だのを欠かさずチェックし、そりゃもうおびただしい数の殺人事件を目の当たりにしてきた。「はぐれ刑事純情派」とか「相棒」、「科捜研の女」なんかの連ドラも履修済み。少なくとも今から40年以上前にはすでにその状態だった。ここ数年はBS放送という手段を手に入れてしまい、昼夜問わず人殺しを追いかけている。たまに実家に帰ると、船越英一郎や中村梅雀が切羽詰まった顔して崖の上に立っていたりする。
殺人事件ウォッチングもあまりにも数をこなしすぎると、ドラマ開始から10分経たないうちに「あー、犯人わかった」とか言い出すレベルに到達する。「新聞のテレビ欄で犯人がわかる」という境地に達していたときもあった。
それでも、見る。とにかく見る。母は殺人事件を見ている。
再放送だろうがオチが見えていようが「いつもあの人犯人だわ」とわかっていようが、殺人事件は絶対に見る。
犯人に苦しめられながらも事件解決を目指して奮闘する刑事や名探偵、葬儀会社の女社長に、感情移入していたのかどうか。それはあやしいけど。
お母さんコワイな、と子ども心に私は思っていた。
サスペンス好きの母には、もう一つ大好きなものがある。
マラソン・駅伝の類である。
私は全然興味がないが、駅伝大会の名前だけはなんだか覚えてしまって、いくつか言える。毎年冬になると、毎週のように母が見ていたからだ。
それだけ好きなマラソン・駅伝だが、母は決して現地に応援しに行くなどということはしない。そもそも現場からはるか遠いド田舎に住んでいるから、というのもあるが、現地で応援することには、母は全く興味がないのだ。
箱根駅伝も、ニューイヤー駅伝も、ひろしま男子駅伝も。
母はいつも、あったか〜い自宅で、ミカンなんかを食べながら、「わーいがんばれー」と脳天気な声援を送っている。
でも、何かのついでとか、「他に見るものがないから」という理由で見ているわけではない。外出していても、「あっ、このあと◯時から駅伝あるから帰る!」と言ってちゃっちゃと帰ってしまう程度には大好きなんである。
母が好きなのは、「自分だけ暖かいところで、苦しみ、もがき、それでも頑張って走り続ける誰かを見ること」なんである。これは母自身が言っていた。
お母さんコワイよ、と、私は40年以上思っている。
「赤い霊柩車」シリーズというサスペンスドラマのシリーズがある。いや、あった。今調べたら、2023年で最終回を迎えていたようだ。
母はもちろんこのシリーズも見ていた。私も高校生の頃から「また片平なぎさが事件に挑んでいるな」と思いながら遠目に眺めていた。私が就職してもシリーズは続いていて、「片平なぎさ、変わらんな〜」と感心していた。「いや、本当に変わらないのは大村崑なのでは」と思ったのは、数年前の帰省のとき。気がつくと、シリーズが始まった頃の母の年齢を、私はすでに追い越していた。
私は、何歳になっても、サスペンスのおもしろさを理解できない。
マラソンや駅伝も、全然見れない。
苦しみ、もがき、それでも頑張って未来を掴み取ろうとしている人を、私は直視できないのかもしれない。他人事じゃない気がしすぎるのかもしれない。とにかく、見ていられない。ていうか単純に殺人事件は怖い。
今日もたぶん、実家のテレビでは山村紅葉が賑やかに喋っていると思うし、お正月は箱根とニューイヤーしか受信しない。
私は今も、母がコワイ。
楽しい企画、ありがとうございます!
素敵な企画だなぁと思いつつも、バタバタと日常を過ごしているうちに、開催当日の夜になってしまいました。
「赤のエッセイ」になってますかね……???