待ちに待ったパリの映画館の再開

コロナの話題でフランスがざわつき始めたのは3月頭だった。少しずつ冬の寒さが和らぎ、通常ならテラスが人で賑わうはずの時期に、人気の無いパリの街並みは不気味だった。遂にフランスにも来たかと思いながら、レンヌ通りのL’Arlequinまでルキノ・ヴィスコンティ監督の『白夜』(1957年)を見に行ったのは3月10日のことだった。

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その後3月12日に行われたマクロン大統領の演説により、4ヶ月にわたって扉を閉めることになったパリの映画館。長い休業期間を経て、既に再開していた他の大都市を追いかけるように、いよいよ今週からパリで映画館が再開した。(シネマテーク・フランセーズは休業中もオンライン配信プラットフォーム「Henri」を立ち上げて貴重な映像鑑賞体験を提供し続けていたが、やはり劇場で観る映画に叶うものはない。)

再開直後のプログラムは、館にもよるが、コロナ前から上映していた作品が多い印象。オデオン周辺では、まさに目と鼻の先にあるLe ChampoとLa Filmothèqueでデビッド・リンチ監督の作品が上映中なので、今日はLe Champoで『エレファント・マン』(1980年)を鑑賞。上映前から列ができていて、結局100席くらいの部屋に40人弱はいただろう。

『エレファント・マン』は実話に基づいた話。19世紀末産業革命に沸くイギリス・ロンドンが主な舞台だ。工場、労働者、クラブ(ソサエティ)で議論するジェントルマン階級など、当時の英国社会経済状況を思い起こさせるシーンが、全体のプロットを引き締めている。例えばジョンがロンドンに戻ってくるところ。ヨーロッパ大陸から船でイギリスの港に到着し、そこから蒸気機関車に乗って首都に戻ってきたのだろう。一瞬だけ写されるロンドンの駅舎の天井は、鉄の骨組みから当時のインダストリアルな雰囲気を想起させる。そして科学という名のもと、ジョンを生物学的に探求しようとする社会の目は、当時とりわけ上流階級の間に見られた新たな発明への熱狂そのもの、と感じる。もちろんアンソニー・ホプキンスの知性をたたえた演技やジョン・ハートの仕草・声色も素晴らしかった。

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映画は社会を写す。映画からその当時の社会情勢、人のあり方・生き方を学ぶことができる。そんな体験を可能にしてくれる映画製作は今後も辞めてはならないし、観る側も受容する気持ち・心を持っていることが大切。パリの映画館に通う中で見えてきたフランスの映画産業のこと、フランス社会での映画の立ち位置、観客の受容力、プログラム、日本映画の捉えられ方、ひいては文化政策などなどをこれから気ままに書いていこうと思います。


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