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【ショートエッセイ】春の日

ずっと好きだったんだよ、君は私のことを知らないけど。

私がどんな決断をしようが、どんな人と出会って恋愛をしようが、苦しんで泣いてようが君は私を知らないんだよ。
君の仕事は、世界に夢を届けること。私と同じような境遇の人はいくらでもいる。

大きな音楽と、大きな歓声の中。
ほんの少しでも、君の視界に入りたかった。
大きな声で名前を呼んで、君がこちらを向く。

一瞬、時が止まる。

君と私だけの時間。
この世の音が、色が、光が、全部なくなる瞬間。
反射で涙が溢れた。
まるでこの世界に君と私しかいないみたいで。
ああ私、きっと恋してる。
素性も知らない、直接しっかり話したこともない人を。


この6年で、世界は結構変わった。段々と私は君を好きではなくなったし、君は画面にあまり出てこなくなった。
少年は大人になった。
人生を思い悩んで、自分なりの結論を出した。


君が変わったのか。
いや、私が変わったのかな。
私が変わったんだろうな。


もうすぐ春の日がやってくる。
寒い冬の日を終わらせて、春の日まで、花が咲くときまで。
あとどれだけ待てば君に会えたんだろう。
私は待てなかった。
君が私から離れていくのを見ていられなかった。


会いたいよ、ずっと会いたかったんだよ。

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