Vol.5「続 立地の決定と物件決定までの長き道のり~エピソード2~」
白楽駅を降りると、細かく言うといくつかの方向はもちろんあるのだが、人の流れの9割は駅から神奈川大学方面に延びる六角橋商店街を通る。
東横線沿線で学生街、といえば他に日吉が挙げられるかもしれないが、慶応大学は日吉の繁華街とは逆方向にあり、かつその繁華街は放射状に延びているため、人の流れは分散する。
日吉と似たような構造のものとしては綱島もそうである。
日吉や綱島のように商店街が放射状になっているところに比べ、白楽は人口動線のほとんどが六角橋商店街ただひとつに集中している。
だから、駅の乗降客数でいえば急行が止まる日吉や綱島より断然少ないが、分散した商店街のそれぞれの人口と、六角橋商店街の通行人口を比べると決して負けていない。
それでいて、地代相場は上記二駅のそれと比べると半額である。
さらにさらに、両隣の駅である「妙蓮寺」、「東白楽」の実に3倍の乗降客数が白楽にはある。
とまぁ、こんなふうにマーケティング調査って感じに分析するとこうなるんだが、そんなことより何より、この六角橋商店街というところは、しっかりと活力に満ちていて、「活きてる街」というのがビンビンと伝わってきた。
そして古くから続く小さい店が多いということもあってか、大規模量販店や百貨店等の参入の余地がないような構造をしていた。
再開発による大幅な街の変革もなさそうであり、しかも「活きている」。
一発で気に入ってしまった。ここだ!って感じ。
中でも俺が最も気に入ったところというのが、この六角橋商店街と平行して通ってる、渋~い「仲見世商店街」というところ。
吉祥寺のハモニカ横丁みたいなものを想像してもらえるとわかりやすいんだが、狙ってんのか!?ってほどの古きよきたたずまい。もうたまらん!って感じ。
そんなわけで、店舗エリアは白楽駅前というだけでなく、「六角橋商店街(仲見世商店街含む)沿いに限定」という、超ピンポイントでいこうと決めた。
ちょうど見に行ったときのこの商店街沿いには「貸し店舗募集」「テナント募集」の張り紙をいくつか目にしたというのもあってか、このようなピンポイント物件選定の仕方も楽観的に考えてしまったようである。「来年以降の話だし・・・」、みたいな変な余裕をぶっこいていたとも言える。
エリアは決まったものの、更に俺がどうしても確かめておきたいことがあった。
それは理屈では説明できない、「魔のスポット」、いや全然オカルト的な話ではなくて、例えば俺の実家がある八王子の、一応「駅前」とギリギリ言ってもいいところがあって、そこがもうかれこれ何回目になるやら数え切れないほど、ラーメン屋になっては撤退し、またラーメン屋(居抜きだろうから)が出来ては潰れる、を繰り返している場所がある。
俺は地元で長いことここらの人の流れを見るともなく感じてきてたから、ここの立地はダメだよ~っていうのがわかっていたが、仮に俺がラーメン屋をやりたい、場所は八王子駅前(もちろん地元民ではないと仮定して)、という志があった場合、不動産屋に「いいところありますよ、居抜きだから格安で、八王子駅から徒歩1分!」と言われた日にゃ、相当なアドヴァンテージで、そこで通行調査などをして、結果が思わしくなくても、「今日がたまたま少ないだけだ。ここはどう考えてもいい場所のはずだ!」とまわりが見えなくなって、しかも不動産屋には急かされたりして、ハンコついてしまったり・・・本当にやっちゃいそうなのである。俺はやりそう。怖い怖い・・・。
これらの「魔のスポット」や、意外な繁盛スポットなど、「駅から徒歩何分」とか「大きなマグネットが近所にある」などの不動産屋の情報だけでは見えてこない、現地で感じとるしかない何とも言えない箇所、というものがあるに違いなかった。
吉野信吾という人が「流行る店」の物件選びについて最も重要なこととして、
自分が知っている場所や地域を選ぶこと
その場所で一週間ほど遊んでみる。そこに集う人たちの習性や匂いを深く肌で感じてみればおのずと良い立地は見えてくる。
と言っている。
全くその通りだと思う俺は、一週間ではなく、まずはここ白楽に住んじゃうことにした。
よく立地調査の際は、平日、祝日、午前、午後、夜など、それぞれに全て調べろ、などと言う人がいるが、俺の場合これらはもちろん、深夜や明け方、晴れの日、雨の日、季節での違い、年末年始、などなど、かなり細かい調査が出来た。だって住んでるんだもん(笑)。
実際、客観的にはどう考えてもよさそうな物件があり、先を越されてしまい、当初は悔しい思いをした物件があったが、その店は開店以降あまり人が入っていない。内装や雰囲気も悪くないのに。
そこは商店街のほんの数メートルだけ脇にずれた場所で、このほんの数メートルが原因で人が流れない、というまさに紙一重だなぁ、とつくづく思った。
かく言う俺はこういう「魔のスポット」を回避することは出来るくらいにこの街に慣れてきて、街の匂いや習性なども知ることが出来たのはいいが、何しろ困ったことに、こんな余裕があるってことは、なかなか良い物件が決まらない、いや出て来ない!っていうことで、ヤバイ!と思っていた。
しかし、何の根拠もないながら、どうしてもこの街で、この商店街沿いで店を出してる自分しかイメージ出来ない、必ず物件は出るはずだ!というチョット馬鹿っぽいまでのポジティブさが何故だかあった。
会社も先に辞めてしまい、とりあえず引っ越してきたのが2006年5月30日、
横浜市民となる・・・。
立地選定に関して、もっともっと根本的なことを述べていなかった。
そう、「なんで横浜なの?」ってこと。
うっかり忘れてた。すっごい重要。
待て次号!ってことで。