Vol.13「ついに見つけた(勝手に)師匠」
これまでに自分が修業先として、直撃突撃交渉により直談判して、しかも撃沈(笑)していった数々を述べていくのは割愛して、本題に入ろう。
「珈琲専門店」、「サイフォン」、「横浜」というキーワードで検索して、上星川という駅にあるお店に行った。
そこのマスターに、自分もカフェをやりたい、という旨を話すと、とても丁寧に色々と教えてくれて、そして、綱島に「カルディー」という店があるから、そこのTさんは本当に凄い人だから、そこでいろいろ訊くといいですよ、と教えてもらった。
そして次の日早速その「カルディー」行ってみた。
ヒゲをたくわえた、頑固で職人気質の達人みたいなホントに勝手なイメージ(笑)を予想して入ったら、そこのマスターのTさんはとっても感じの良い、まだ40代で(しかももう少し若く見える)、カッコイイ人だった。
そこでコロンビアを注文した。ようやく、というか初めてサイフォンで最高に旨い珈琲に出会えた。
サイフォン以外のペーパーやネルも全て含めても、生涯で5指には絶対に入るおいしさだった。
味は申し分ないこと以上に、ここではおそらく語り尽くせない多くの衝撃を他にも受けた。
これまでも、多くの喫茶店のマスターと話をし、こちらの事情も話すと懇切丁寧に何でも教えてくれる人が多かったが、だいたい、というかほぼ例外なく、「でもこの世界は今厳しいよ」という結びとともに、ネガティブな空気になってしまうことが多かった。
別にこれらのマスターの方々は「ライバルを作りたくない」とか「本当のことは教えてたまるか」みたいな考えではなく、親切心&老婆心で心底から言ってくれてるのも十分伝わってきた。
カルディーのマスターTさんからは、このようなネガティブな発言は最後まで出ることはなかった。
最初、Tさんに「何故また横浜なんですか?」と訊かれ、「単純に昔っから大好きな場所だったっていうだけなんです」というと、「そういう一番初めの気持ちって大事ですよね」という言葉が返ってきた。
よどみなく常連のお客さんが入ってきて、それぞれの人たちと満遍なくコミュニケーションをとり、でも必要以上に話し込むでもない、きっとお客さん側としても、だからこそ居心地がいいと感じるのだろう。
豆の話や厨房の奥行きの話にいたるまで、全てオープンに話をしていただけた。
珈琲もコロンビア以外に、水出しアイス珈琲、エスプレッソ、リッチブレンドといくつも特別にサービスして飲ませていただいた。どれもが本当においしかった。
「ここでは人手は必要としていませんか?給料とか一銭もいらないんで、ここで掃除でもなんでもするんで、現場を修行してみたいんです。」というと、「いやいや別に何でも教えますよ。なんだったら10時の閉店後に少し時間とったっていいですし、どこかひとつのところをひたすら見るよりも、あなたが今そうしてるようにいろんなお店をまわって、多くのものを吸収したほうがいいと思いますよ。いいところばかりを吸収して、自分にとって最高の店を作って、逆にこちらもそれを見て参考にさせてほしいと思いますし」という、なんだってこんな親切にしてくれるんだろう、とますますどうしてもここで修行したくなったが、確かにここの店はマスターが一人でまわせるように作られ、機能していて、他者が入り込む余地はないというのも頷けた。
Tさんの今の言葉の後半でもわかるように、20年以上のキャリアがありながら、しっかりとまだ研究熱心というか、上を向いてる姿勢がうかがえて、全くふんぞり返ってない。
Tさんは笑いながら言う「よく、常連のお客さんがここは変わらないから安心する、って言ってくれる。でも実は色々と変えてきてるんだけどなぁ」
このへんの違いなんだと思う。だからこそ20年以上店が続いているんだと思う。
いや、20年以上ホントに何も変わらず無駄に長く続いてる店もあるけど、ここは違う。
新鮮な豆を使い、正しい入れかた、正しいやり方で、お客さんをもてなすホスピタリティー精神があれば、ちゃんとお客さんは指示するんだ、っていうのを確信することができた。
そんなわけで私は弟子入りを認められてないが、Tさんを勝手に師匠にすることにした。
お店に迷惑がかからない範囲で、折をみてはここに通って、いろいろと吸収させてもらっている。
カルディーには既にいろんな思い出がある。
夜10時の店じまい以降もバックヤードを見せてくれたり、チョット信じられないことだが、この店の経理上の集計まで教えてくれた上で、
今後の開業計画書に関するアドバイス、水道光熱費等の目安など、本当に具体的で突っ込んだ話をいつまでも聴かせてくれて、ついには俺は終電を逃し、師匠の車で家の前まで送ってもらったり、師匠から得たものの多さははかりしれない。
言葉上の意味じゃなく、本当に「この恩は一生忘れない」。
俺自身が逆に今出来ることなんていうのは、こういうブログとか他のいろんな人たちに「綱島のカルディーっていうところは本当にコーヒーがおいしいよ!」っていうことを言いふらすことくらいだ。
そして俺の店が軌道にのって以降もずっと、「俺には勝手に師匠と呼んでる人がいて・・・」という話をしたい。
牛飼いのカルディーが遊牧していた山羊が赤い実を食べて興奮しているのを見たことにより端を発したとされるコーヒー創生伝説の名のとおり、俺にとってもこの綱島の「カルディー」を全ての原点として、これからの物語をおもしろくしていきたいと思う。
次回は俺のもう一人の師匠のこと、やはりこれも運命的出会いにより実際に修業を敢行した聖地、軽井沢「丸山珈琲」についてです。