【第20〜23回】『ボーン・クロックス』『虐殺器官』『ハーモニー』
こんにちは。
文学ラジオ空飛び猫たちです。
2020年にお送りした文学作品を紹介していきます。
硬派な文学作品を楽しもう!をコンセプトにしたラジオ番組です。毎週月曜日7時にpodcast等で配信しています。ラジオをきっかけに、文学作品に触れていただけると嬉しいです。
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【第20・21回】『ボーン・クロックス 前編・後編』デイヴィッド・ミッチェル著
【第20回 前編】〜この小説には6つの物語がある〜
【第21回 後編】〜永遠に生きる〜
あらすじ
1984年夏、英国グレイヴゼンドのパブの娘ホリー・サイクスは、母との喧嘩で家出したある日、老婆エスター・リトルと出会い、不思議な約束を交わす。1991年、ケンブリッジ大の小賢しい学生ヒューゴ・ラム、2004年、イラク戦争を取材する仕事中毒のジャーナリスト、エド・ブルーベック、2015年、才能の枯渇した作家クリスピン・ハーシー。彼らはそれぞれの日常の中で、ホリーとのささやかな邂逅を果たし、いっぽうホリーは彼らと交差する人生の背後で、〈時計学者(ホロロジスト)〉と〈隠者(アンコライト)〉との永遠に続く戦いに巻き込まれていく。そして2043年、自然災害が頻発するディストピアと化したアイルランドで、死を前にして静かに暮らすホリーは、ボーン・クロックス〈骨でできた時計〉の意味を悟る──。ひとりの女性の人生を舞台に、6つの物語が展開する壮大なるサーガ。世界幻想文学大賞受賞。ブッカー賞ノミネート。
感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
約650ページの長編で、主人公ホリー・サイクスを中心としたダイナミックな物語が味わえます。全6章の時代は異なりますが、細かいエピソードやいろいろな要素がつながっていて、どの章も読み進めるとどんどんおもしろくなっていきます。また第5章で時計学者(ホロロジスト)〉と〈隠者(アンコライト)〉の壮大なバトルシーンがあって決着がつくのですが、その後に第6章で終末の未来を描いているのもおもしろくて、同作者の『クラウド・アトラス』に通じるものがあります。漫画だと15巻分くらいのボリュームだと思います。個人的には第4章に出てくる作家クリスピン・ハーシーが人間味に溢れていて好きなキャラでした。
年に1冊読み応えのある長編です。ただファンタジー色も強くて、現実社会の話の中で不意打ちでファンタジーが入ってくるので、苦手な人は合わないかもしれないです。
ミエ
重厚で読み応えのある小説です。現実社会とファンタジーの2つの世界が存在しているのですが、現実社会がすごく綿密に、けっこう世界情勢や人間関係も絡めて重く描かれているので、ファンタジーの世界をよりシビアに読むことができます。突然ファンタジーが来たときの緊張感がたまらないです。また現実社会で重要でない人物(例えばアル中の世捨て人がファンタジー世界では一つのキーパーソンになっていたり)がファンタジーの世界では重要だったりするので、それもおもしろい点でした。この小説のハイライトでもある第5章はファンタジー一色で描かれるので好き嫌いがわかれるかもしれないですが、個人的にはすごく好きで最高におもしろかったです。ラジオでは多少のネタバレをしつつ話していますが、それ以上に情報量が多い小説なので、ある程度の内容を知っていてもおもしろく読めると思います。再読しても新鮮に読める小説です。
単純なファンタジー小説ではなく、現実社会やSF要素も絡んでいて複合的なおもしろがあります。重厚な小説を読みたい人にはぴったりな一冊だと思います。
【第22回】『虐殺器官』伊藤計劃著 〜虐殺には文法がある〜
あらすじ
9・11以降の"テロとの戦い"は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす"虐殺の器官"とは? 現代の罪と罰を描き切る、ゼロ年代最高のフィクション。
感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
ラジオでは多少ネタバレを話していますが、読むきっかけになればと思っています。ただ未読の人でこれから読むのを楽しみにしている状態なら、さきに読んでいただいてその後にラジオを聴いてほしいと思います。小説の感想としては、初読のときは衝撃を受けました。9・11以降の世界をSF小説として描いているのですが、驚きの連続です。『虐殺器官』、『ハーモニー』と続けて読むのがおすすめです。米軍大尉でいながら悩みを抱えて戦う主人公クラヴィス・シェパードの心情にも惹かれました。
幅広く楽しめる要素がある小説です。アクション映画が好きな人や、世界情勢が絡む特殊部隊の世界が好きな人や、「虐殺の文法」という小難しい理論をわくわくして読める人ははまると思います。SF初心者でも楽しめます。「虐殺の文法」のアイデアがおもしろくて、文体も読みやすいです。
ミエ
タイトルに《虐殺》と入っているだけあって残虐な描写は多少ありますが、SF小説としておもしろいです。作中の重要なアイデアである「虐殺の文法」の理論は難しいところがありますが、何となくの理解でも十分に楽しめます。また引きのある登場人物も魅力的で、ジョン・ポールという悪役に位置付けされるキャラには成り立ちのドラマがあって、主人公クラヴィス・シェパードも特殊部隊に所属する軍人でありながら人間味があって、この二人の会話には惹き込まれました。
『ハーモニー』に比べると『虐殺器官』はよりスリリングな展開です。エンタメ要素も高く、多くの人にとって楽しめると思います。
【第23回】『ハーモニー』伊藤計劃著 〜天才が描いた病なきユートピア〜
あらすじ
21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した――。それから13年。死ねなかった少女・霧慧(きりえ)トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはすの少女の影を見る――。『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。
感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
『虐殺器官』よりもさらに完成されている印象で、それを読みやすく小説にしているのがすごいと思いました。『虐殺器官』あっての『ハーモニー』だと思うので、順序としてはさきに『虐殺器官』を読んでほしいです。未来の監視社会において人間のあり方を問いている小説で、結末に対していろいろな考え方が持てると思うので読者は意見を触発されると思います。
『虐殺器官』同様、SF初心者でも読みやすいです。ただグロテスクな描写もあります。アニメ化もされているのでアニメから入ってもいいと思います。
ミエ
人間とは何かを描いていて、SF小説ならではの思考実験が楽しめます。完璧に調和された世界に個人の意識は存在しない、という問いたてを小説におもしろく落とし込んだ伊藤計劃さんはすごいと思いました。ラストの喪失感は『エヴァンゲリオン』の人類補完計画を観ていたときの感覚に近いです。個人的には『虐殺器官』より『ハーモニー』の方がより緊張感が伝わってきて惹かれました。
伊藤計劃さんの小説はまだまだ古びないと思います。世の中がシビアになればなるほど読者と通じ合うものがあると思います。
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