古い洋館の雰囲気が一変、パレスチナ刺繍やウズベキスタンの織物
江戸城跡、皇居のお濠に近い九段下にひっそりと立つ洋館。「クダン・ハウス」という建物に初めて足を踏み入れた。「シルクロードの美」と題した、中東や中央アジアの布を中心とした工芸品を集めたアートイベントを鑑賞するためだった。
パレスチナの伝統的な刺繍を和服の帯に加工して販売することで、パレスチナ難民など製作者の自活を支えようという事業を行なっている山本真希さんが主催。アクセサリー、じゅうたん、キリムなどの即売ブースが洋館の各室に配置されていて、そこをめぐっていると幻想的で不思議な感覚になってくる。
この独特な空気を支えていたのが、館内各所に展示されていた、中東や中央アジアの民族衣装。大使館や研究者、ミュージアムなどから借り集めたもののようで、2日だけ存在してなくなってしまうのが惜しいほどの装飾博物館だった。期間中、音楽コンサートや写真展、トークイベントなどさまざまな企画が散りばめられていたが、メインイベントは、パレスチナ刺繍帯やウズベキスタン織物を取り入れた和服を中心としたファッションショーだったといえる。地下1階に作られたステージで20分、色とりどりのコスチュームのモデルさんが登場。司会者が1点1点の産地やエピソードを紹介してくれたことで、衣装の向こうにあるさまざまなストーリーが想像でき、イメージがふくらんだ。これだけの多彩なイベントを成功させた関係者の皆さまに深い敬意を表したい。会場を後にするころには、夕闇が迫っていた。玄関前に立ち、洋館を眺めていたら、パレスチナ人の街である東エルサレムにある「アメリカンコロニー」というホテルにいるのではないか、という錯覚に襲われた。
このイベントが東京に作り出した中東空間が、そうした感覚を導き出したということなのだろう。
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