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シリア・アサド独裁政権の罪業、生々しく証言…写真家・小松由佳さん講演会

写真家の小松由佳さんの講演会に行ってきた。「地平線会議」という冒険を愛する人たちのグルーブが主催。

小松さんは、元々登山家。2006年、世界第2の高峰であるK2(8611m)に日本人女性として初登頂し、この功績で「植村直己冒険賞」を受賞している。

K2登頂後、ヒマラヤの麓での生活や風土に根ざした人々の暮らしに感銘を受け、写真を通じて「人間の営み」を記録する活動を始める。

さらに、2012年からシリア内戦をテーマに撮影を開始。難民キャンプや紛争地域を訪れ、シリアの人々の暮らしや文化、そして戦争がもたらしたものを写真や文章で世界に伝えてきた。

今回の講演は、昨年末のアサド独裁政権崩壊の報を受け、欧州での取材を切り上げてシリアに向かった小松さんや、同行した日本在住のシリア人の夫ラドワンさん、8歳の長男サーメルさんが、政権崩壊直後のシリアで何をみたのか、小松さんの写真とともに紹介された。

政権崩壊後、市民によって引き裂かれた、バッシャール・アサド大統領の肖像画を示す小松さん

内容はとても濃密で、すべて書ききれないので、特に心に残った点を記す。シリアの絶滅収容所とも言われる「サイドナヤ刑務所」を訪れた時の話だ。

夫ラドワンさんの兄、サーメルさんは、2012年、自宅があるパルミラの大通りで「シリアに自由を」と叫んだ後、身の危険を感じて砂漠地帯に逃げて潜伏したが、生まれたばかりのわが子に会いに帰宅したところ、その翌日に、秘密警察に連行された。小松さんは、近隣の住民に密告された可能性が高いとみている。サーメルさんはサイドナヤ刑務所に送られたとみられるが、現在まで行方が分からない。

現在は誰でも入ることができるという、サイドナヤ刑務所内を撮った写真に戦慄をおぼえた。死亡した受刑者の遺体を細かく切り刻むための機械。拷問で体を押しつぶすための巨大な万力のような機械。部屋の床には、足をとられるほどのどろどろの液体がたまっていて猛烈な異臭がしたという。小松さんは、遺体から出た体液ではないか、と話していた。

小松さんたちは、行方知れずのサーメルさんに関する情報提供を求めるポスターを刑務所内や首都ダマスカスの広場などに貼った。そうしたポスターは、政権崩壊後、街のいたるところに貼られるようになったという。政権側に拘束され、行方不明になった人がどれだけ多いかを示している。

アサド政権下での住民に対する残虐行為としては、住民への化学兵器の使用、反政府勢力が支配する地域への空爆や砲撃、都市を包囲して食料や医療品の供給を遮断することで、住民を飢餓に追い込む戦術なども知られている。

小松さんの写真と語りからは、自由を訴えた人々への想像を接する拷問や虐待の実態がひしひしと伝わったきた。10年以上にわたって、家族とともにシリアをみつめてきた小松さんだからこその、貴重な内容だった。小松さんのホームページには、今回のシリア行きの直前に書かれたレポートが掲載。サーメルやサイドナヤ刑務所についても触れている。

最後に、「地平線会議」について。「地球体験」を目指す行動者たちがゆるやかにつながる場として1979年に設立。会員制ではなく、会則、事務所も持たない自由な組織だ。

今回小松さんが講演したのは、月一回に開催される「地平線報告会」。冒険家や探検家、研究者などが自身の体験や知見を語っている。また、会報誌「地平線通信」を発行し、メンバーの活動報告や情報交換を行っている。






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