カフェバグダッド年代記⑤-モスク見学付き、アラブ人学者によるアラブ人論
カフェバグダッドイベントは回を重ねていく。アイデアはいろいろ浮上してはきたが、どうすれば、参加者の満足度を高められるかを考えながら、試行錯誤で取り組んでいった。
座学だけではないイベントということで行ったのが、「アラブ人と仲良くする方法」と題した金子貴一さんのトーク。金子さんは、カイロ在住が長く、エジプトやイラクなどでメディア記者やコーディネーターを務めたことがある方。現在は、海外、日本のユニークな場所を訪ねる観光ツアーのガイドをつとめている。「秘境添乗員」などの著書もある。
その金子さんに、東京・代々木上原のモスク「東京ジャーミイ」などを案内してもらうというイベントを企画した。
この企画には前段があり、当時、カフェバグダッドは「下北沢アラブ街」というネーミングを考案して、地図を作ったりしていた。東北沢には、「うちむら」というホンモスなどアラブ料理を売っているデリがあり、下北沢には、当時としては珍しかった水タバコカフェ「シーシャ」があったりと、中東に関係したスポットが結構あったこの下北沢アラブ街を金子さんの案内で回ろうというのが、イベントの狙いだったのだ。ちなみに、下北沢アラブ街は、その後、結構話題になり、日本経済新聞が発行していた別冊メディア「THE NIKKEI MAGAZINE」2006年4月号で紹介されたりもした。
もちろんこのイベントでも、トークも行った。金子さんがアラブ人との濃密な人間づきあいでつちかった、アラブ人との円滑なコミュニケーション法を伝授してもらう、というものだった。
「アラブ人とは、何者か」という点に切り込んだという点では、その次の回も同様の切り口だった。エジプト人言語学者、アルモーメン・アブドーラさんによる「アラブ人によるアラブ論」というトーク。
このイベントの数年後、「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」という日本、アラブ比較論の著書を出版するモーメンさんに、アラブ人とは、という命題に迫ってもらったのは、等身大の中東を日本に紹介するという大目標を掲げるカフェバグダッドとしては、とても意義深かったと今、改めて感じる。
さらに、この時期、東京・渋谷にあったレンタルカフェ「コラボカフェ」を借りてのポップアップカフェ「カフェバグダッド・イン・シブヤ」を3回開催した。
それまでのイベントのようなトークはなかったが、チャイやカルカデ(ハイビスカスティー)、中東のワイン、ビールが気軽に楽しめるというスタイル。これはかなりの人気を博し、ある回では、会場入り口に人が並び、入場制限を行わざるを得ない事態になったことを今でも覚えている。
さらに、この時期、横浜で開催された国際交流フェスタにも出展。屋外ブースでカルカデなどを販売するというこころみも行った。このイベントでも、紙コップに注いだカルカデが文字通り「飛ぶように売れた」のを覚えている。必ずしも中東のことに関心を持っている人たちばかりではなかったと思うが、特に食の分野で、新しい、未知のものに対する日本人の感度の高さを実感したのだった。