自爆攻撃にかりたてる「絶望」描く…パレスチナ映画「パラダイスナウ」
イスラエルによるガザ攻撃が延々と続いている2024年の夏。肉親・親戚・友人を失ったパレスチナ人の絶望感の大きさは計り知れないものがある。イスラエルがガザ空爆の根拠にするパレスチナ武装組織による「テロ」については、なぜ彼らがそうした攻撃をするのか、についてよく考える必要がある。2007年春に日本で公開された「パラダイスナウ」という映画は、まさにその点を描いた作品だ。以下は、2007年4月9日に、当時のカフェバグダッド・ブログに書いた映画評。今、改めて注目されるべき作品だと思う。
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渋谷の東急百貨店裏にあるカフェ付映画館「アップリンク」で、物議と話題をかもした「パラダイスナウ」をようやく鑑賞。パレスチナの「自爆テロ」を正面から取り上げている。
ハニ・アブ・アサド監督は、ウィキペディアによれば、イスラエルのナザレ生まれのイスラエル国内で生まれ育ったパレスチナ人。
ヨルダン川西岸の主要都市ナブルスで自動車修理工として働いていた二人の若者が、パレスチナ解放組織の指令を受け、自爆攻撃決行のため、イスラエル最大都市テルアビブを目指すストーリー。ひとことで言えば「等身大の『自爆テロ犯』を描いた作品」か。
殉教とされる自爆攻撃で、「天国に昇天する」ことを指していると見られる「パラダイスナウ」というタイトルには、やや似つかわしくもなく、主人公が攻撃を命じられる組織(架空?)は、ハマスに代表されるイスラム系ではなく、どうも民族主義系だ。PLO傘下のファタハ系武装組織「アルアクサ殉教者旅団」あたりを想起させる。
アジトがあったのは、どうもナブルス旧市街という設定。迷路のように入り組んだ場所で真実味がある。
ナブルスはクナーファなどのお菓子が名産。主人公が、モロッコから来たパレスチナ人女性に、紅茶に砂糖を多く入れたことを皮肉られるシーンがあるが、ナブルスの人は「甘いものが好き」という定評があるということなのだろう。
主人公が発する言葉からも、主人公が、オスロ合意(1993年)に基づく、イスラエル・パレスチナの二国家共存の和平プロセスを支持していた人物であることが示唆される。つまりオスロ・プロセスを一貫して否定するハマスとは距離を置く、世俗的なパレスチナ人という人物設定がなされている。
自爆攻撃実行を決意する動機について主人公が語るが、これは、宗教的動機よりも、イスラエルの占領に対する絶望という側面が強いことを明確に示していた。
なぜパレスチナ人が「自爆」攻撃を行うのか、という問いに答えるのは非常に困難だ。攻撃して死亡した人にその理由を聞くことはできないからだ。私が実際にパレスチナで、遺族や友人たちから聞いた説明も、それが真実を言い当てているのかどうか、疑問な面もある、と感じたことも少なくなかった。
この作品で語られた動機が、自爆に走った多くの若者の多くが抱いたもなのかは分からないが、少なくとも作品の中では、主人公が語った動機は、非常にリアリティのあるもののように感じた。