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中東の少数派ヤジーディの虐殺から6年…今なお「かつてない危機」

2014年8月3日、ISがイラク北西部のシンジャール地方に侵攻してから6年になる。ISは、同地方に暮らす「ヤジーディ」とよばれる宗教的少数派の人々3000人以上を殺害し、6000人以上を拉致した。ISはヤジーディを「多神教」だと決めつけ、改宗を拒んだ男性たちを殺害し、女性たちを「性奴隷」にした。ヤジーディの少年たちにISの思想を植えつけ、少年兵として戦闘に参加させられた者も多い。

拉致されたまま、まだ行方が分からない人たちも多い。クルド地域のテレビ局「ルダウ」は7月の時点で、2887人が行方不明だと伝えている。ISがイラクとシリアの領土を失い、「壊滅」したとされてから1年半近く。国際社会の関心が薄れていることは否めないが、ヤジーディの悲劇は終わっておらず、現在進行形だ。

国際人権団体「国際アムネスティー」は7月30日に発表した「テロの遺産」と題するレポートの中で、ISに拉致されたヤジーディの子どもたちに焦点を当て、彼らへのケアが緊急の課題だと訴えている。今年2月に行った、帰還した子どもたち29人への聞き取り調査などに基づいたものだ。

「若くして戦争の恐怖を耐えた子どもたちが未来を築いていくために、イラク当局や国際社会が緊急の支援をすることが必要だ」。「子どもたちはテロの遺産に直面している。彼らの肉体的健康や心の健康が、この先数年の最優先事項であなければならない。彼らが家族やコミュニティーへの完全な復帰を果たすために」。「国際アムネスティー」のマット・ウェルス氏は訴える。

子どもたちは、ISの拘束から解放された後も、トラウマに起因するストレス、不安、抑うつ状態に苦しんでいるという。その兆候としては、攻撃的態度、フラッシュバック、悪夢、感情の振幅などがみられるという。レポートには、多くの具体的な事例が紹介されている。

一方、ISの侵攻で家を追われた約20万人のヤジーディたちは、帰還を果たせず、避難民キャンプでの暮らしを続けている。

イラク国内外にある避難民キャンプの生活環境は劣悪で、新型コロナウイルスの感染拡大が、それに拍車をかけている。清潔な飲料水にもこと欠き、十分な医療も受けられない状況だ。それに加え、キャンプ内の人口密度の高さから、感染拡大防止に必須の「ソーシャル・ディスタンシング」の確保も難しい。感染拡大による地域経済の低迷で、職を失った者も少なくない。さらに、クルド地域政府が避難民の地域外への移動を制限したことから、子どもがシンジャール地方に駐留する治安部隊に加わっている多くの親たちは、子どもと会うことができなくなってしまっている。

皮肉なことにこうした状況が、まだ復興が進んでいない故郷シンジャールへのヤジーディの帰還を促す結果になっている。

国際移住帰還(IOM)イラク事務所の調べでは、6月上旬から1か月の間に、シンジャール地方に機関した人は8581人。前月は1512人だったので、帰還者は著しく増えた。IOMは「道路、学校、保健所、病院、水道といった生活基盤再建への支援が必要だ」と訴える。

「ルダウ」によると、シンジャール地方のジル・オゼル地区で、地中から男女4人の遺体が見つかった。ISに殺害されたヤジーディとみられる。ヤジーディたちにとっては、6年前の悲劇は、今も終わっていない現前のものだ。

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