たった一度のインパクト
年に1回ほど、決まった季節にご来店してくださるお客様がいらっしゃいます。
その方が、ご来店されるたびにおっしゃるのです。
「nakazumiさん、ずいぶん明るくなったね。
最初に来た時、なんだかホント暗くて、今と顔つきが全然違ってたよ」
と。
毎年、ご来店するなり第一声が、「明るくなって別人だよね!」とか「あれ? なんか若くなった? 前は暗かったよね」とか「イイ顔になった! 昔、暗くてさー」とか、さらにはお連れ様に「あのね、この人、前はすごく暗かったんだよ」とご説明される年も。
なんかもう……すみません……。
わたし、過去に相当暗い接客をしたみたいです。
たしかに、「世界の不幸を全部背負っている」つもりで落ち込んだ時期が、約1年間だけありました。
今となってはあんまり記憶もない、あの1年間。
その時の底なしの暗い印象が強烈のようで、もうずいぶん経つのに、ご来店のたびに挨拶のようにわたしのことを「暗かった」と口にされるそのお客様。
でも多分、暗かったのって、そのお客様にとって最初の1回だけなのです。
その後、十数回以上、明るい接客してると思うんだけどなあ。
その節は、本当に申し訳ありませんでした。
初回の鮮烈な悲壮感漂う接客にもかかわらず、その後もご来店いただけたこと、誠にありがたく思っております。
そしてこの夏にも、15年ぶりにご来店された懐かしい知人に、「前回来た時、ずいぶん元気なく見えたけれど、今の方が溌溂としてる。いやあ見違えたね!」と言われてしまいました。
15年前のわたし、相当ダメージ食らっていた模様。
そして、「あれ? 似たようなこと、他にもある」と気づきました。
ある限られた時期の一時的な状態を、ずっと記憶されて何度も指摘されるという経験、他にもある……。
20歳の頃、約1年間だけ激太りした時がそうでした。
一人暮らしを始めて、お酒も飲みだして、好きな物ばかり好きな時に飲み食いして、おまけに失恋してやけ食いして気づいたら、なんとなんとあっという間に10キロ増。
ちなみにこの時期に成人式の記念写真を撮ったので、これまでの人生で最も太ったわたしが、振袖にくるまれてはち切れんばかりの状態で無駄に立派に記録されています。
さらに写真屋さんの勧めで、わたしのその激太り振袖写真を当時流行っていたテレホンカードにしたうちの母。
あのテレカ、親戚等に配ったりしていないことを切に願います。
さて、20歳のあの頃、さすがにこんなに肉を纏ってはいけないと節制して1年もしないうちに痩せて戻したのですが、そのたった1年間の太った時期のわたしは、人様の脳内には強烈な記憶として残るようで、当時会った友人たちからは、その後会うたびに「痩せたね!」と、本当によく言われました。
「いや、太ってたの、あの時だけだし」
「太る前にも、痩せてからも、何回も会ってるのに」
「太ってない時の方が、たくさん会ってるよね?」
「太ってた時に会ったの、1回だけだよね?」
と、毎度毎度心の中で反論したものです。
ところが、毎日顔を合わせる人々には一時的な状態はそれほど記憶に残らないようで、当時同じ大学に通って今も親しくしている友人は、わたしのあの甚だしい激太りを「覚えていない」と言います。
そういう訳で、初回や、微妙な頻度で会う相手の印象って、かなりの強度で記憶に残ってしまうのだと身をもって痛感いたしました。
どんな出会いも、一期一会。
気をつけなければなりません。
あ~もう二度と激太りしたくないし、暗い接客もしてはいけないなあ、と反省しきりなのですが、またまた気づいてしまいました。
15年前の1年間限定悲壮感接客も、20歳当時の1年間だけの激太りも、どちらも原因が同じ(=失恋)だということに。
あれ? 相手も同じだったかも……。
まったく成長しない自分を発見してうろたえる秋のはじめです。