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地球生物館

A星人のタロウは、念願の「地球生物館」にやってきた。

「空気や水が存在する美しい地球は、本当に不思議な星なんだ。今まで図鑑でしか見たことがなかった地球の生き物を、いよいよ生で見られるんだ!」

ワクワクしながら早足で入場すると、大きな目を輝かせて奥へと進むタロウ。
ここには、地球上のあらゆる生物が展示されている。
様々な処理を施した標本として展示されているものもあれば、生きたままケースに入れられて展示されているものもある。

タロウは、展示ケースの傍らに立つ学芸員に尋ねた。

タロウ:「ねえ、どうしてみんな2つずつ1セットになってケースに入っているの?」
学芸員:「いいところに気がつきましたね。
地球上の生物には、『雄』と『雌』の2種類があるのです。
それぞれつくりや機能が違っていて、その組み合わせを「つがい」と言います。そしてそれこそが地球が独特な星であるゆえんです」
タロウ:「え? 雄と雌が別々に存在するの? 1つの個体に両方が備わっているボクらとは、全然ちがうね」

そして、タロウが一番見たかったものがついに目の前に現れた。
ひときわ大きなケースに展示されているのは、地球人。
様々な肌の色、様々な髪の色の地球人が、2個体1組の「つがい」になってケースに入っていた。
食事をしたり、運動をしたり、眠ったり、いろんな状態でケースの中で過ごす地球人。

タロウ:「すごい! 図鑑でしか見たことのなかった地球人が、動いているよ! そしてやっぱり、『雄』と『雌』があるんだね」
学芸員:「その通り。
さらに非常に興味深いのは、地球人の世界には『雌雄』だけではなく、あらゆる2つの異なった対極があることです。
『善悪』『貧富』『優劣』『美醜』『老若』『貴賤』『強弱』『上下』『左右』……。それらをめぐって『幸、不幸』に一喜一憂するのが地球人です」
タロウ:「ふーん。ボクたちの星では、雄も雌も、どんな対極も一つの個体の中にすべて併せ持っているけど……」
学芸員:「そうですね。もしかしたら、地球人もそうである可能性はありますが、2つの異なる対極を前に自分はそのどちらに属するのか、どの位置にいるのか、それによって苦しんだり、争ったり、喜んだりするのが地球人。本当に不思議な生物です。
地球上で知能は一番高いとされていますが、そのレベルは宇宙全体では下から2番目ということですから」

タロウは、ふと浮かんだ疑問を口にした。

タロウ:「ところで、ここにいる地球人たちは、どうやって選ばれてここに来たの?」
学芸員:「調査研究のため、地球からランダムに採取したのです。
これは『繁殖研究のための捕獲』になります。
地球人のレベルの低さから考えると、このままでは絶滅が予想されるために、ここで繁殖を試みているのですが、成功例はまだありません。
単に雄と雌を組み合わせておけばよい、というわけではなさそうで、相性があるのかもしれません」
タロウ:「へえ~。子孫を残すのに相手が必要で、しかも相性も関係するだなんて大変だね!」

そう言いながら、狭いケースの中で動く地球人を眺めていたタロウは、なんだか複雑な気持ちになる。

タロウ:「この地球人たちは、本来ならもっと広い地球上を自由に動くんでしょう? 繁殖の相手だってきっと自分で見つけるんでしょう? 
わけもわからずいきなりこのケースの中で1組になって、いったいどんな気持ちなんだろう?」
学芸員:「大丈夫。地球人にそんな繊細な感情はありませんよ。なんといっても、宇宙で下から2番目のレベルなんですから。
むしろ、競争が激しく争いの絶えない地球上での生活に比べて、ここでは衣食住は保障され、パートナーを探す手間もなく、煩わしい個体間の軋轢もなく、何より生命が脅かされる心配がないんです。天国です」

学芸員の言葉を聞きながら、地球人を見つめるタロウ。
ケースの中の地球人の目が、さびしそうに光るのを見たような気がした。


以前、宇宙人に誘拐されたという人のお話を、お客様から聞きました。
その方は、宇宙人にこう言われたそうです。
「宇宙には知的生命体の存在する星が数えきれないほどあるが、その中でも地球のレベルは下から2番目だ」と。
そうかー、やっぱりそんなにレベルが低いんだなあ、と思ったところから生まれたお話です。
1番下の星はいったいどんな星なんだろうと、『上下』が気になる地球人のわたしは考えてしまいます。


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