ボケとオトボケのあいだ
中年になると、当然ながらその親は高齢になる。
今まで人ごとのように考えていたが、そろそろ介護を考えなくてはいけなくなってきた。
うちの母親は80を超えている。
「まだ頭ははっきりしている」と言いたいところだが、そういうわけでもない。というより、昔からはっきりしていないように思うのだ。
天然というかオトボケというか人の話を聞いていないというか、とにかくどこから認知症と言っていいものか線引きが難しいのである。
先日、実家に帰ったら食卓の上に見慣れない機器がおいてあった。
「これなに?」
「血圧計やんか」
きっと病院で薦められたのだろう。
「こないだびっくりしたわ」
「なにが?」
「測ったら、800もあってん!」
・・・死んでるよ。
「いつもは500ぐらいやのに・・・」
・・・うん、それでも死んでる。
「心配になってもてなぁ・・」
血圧以外のところが心配です。
と、まあこんな感じのやり取りは昔から日常茶飯事なのだ。
とはいえ、最近は体力の衰えも自覚しているらしく、日常生活にも支障が出てきたので介護認定を受けようということになった。
認定審査の前に一度、あんしんセンターというところから様子を見に人がきて、簡単な説明をしてくれるということであったので、当日はわたしも立ち会うことにした。
「たいへんや!家中さがしたけど介護保険証が見つからへん!」
介護保険証はテーブルの真ん中に置かれている。
「ここにおいてあるけど」
「それはちゃうやろ?介護保険証って三角形でフワフワしたやつやろ?」
いったい何と勘違いしているのだろうか?ペーパーレスの時代に三角形でフワフワした保険証を発行している自治体はないだろう。
「たしか、あんたが持って帰ったと思うで」
いままで生きてきたなかで、三角形でフワフワしたものを持ったことがない。
「まあ、とりあえずこれがあったらええから」
そういってあんしんセンターの人が来るのを待った。
「はじめまして。ちょっとお体のこと聞かせてくださいね」
「はいはい、どうぞ」
「日常で不安なところとかありますか?たとえば歩くのが難しくなってきたとか?」
「わたしね、足だけは丈夫なんですわ。いまも毎日一人で山に行ってますねん」
いやいや、丈夫をアピールするんじゃない。取れるものも取れんだろ。
「買い物いくのはめんどうやけどねぇ・・・」
ヘルパーさんはお手伝いさんではない。
年代だろうか、困ったことに人前では気丈を装ってしまい、介護認定をクリアしようとしてしまうのだ。
う〜ん、どこまでがこの人の資質なのか?
家族でも判定が難しい。