『珈琲の知識(星隆造,1929)』が面白い

先日、コーヒーの焙煎度の日本語表記について調べている時、『珈琲の知識(星隆造,1929)』という本を読みました。94年前の本ですが、いまのコーヒー事情と通じるところ、微妙なズレ、その他諸々色々面白かったので4点ほど書き留めます。

まず焙煎度の8段階表記について。前回の記事では流石に古すぎるかと表には入れませんでしたが、この本にも8段階表記について書かれていました。 

珈琲の焙り方には、淡焙。シナモン焙。中焙。濃焙。都市向。最高都市向。フランス向。イタリー向等である。

『珈琲の知識』140頁

「フルシティロースト」は「最高都市向」。最高都市!なかなかに魅力的な言葉です。また、「都市向」の時点で「暗黒色で」と書いてあるので、今のイメージより深煎りな感じなのでしょうか?

つづいてコーヒー生豆のエイジングについて。生豆のエイジングについては今も賛否両論ありますが、当時も今と同じく、議論の対象だったようです。

珈琲は長く保存する程善くなって行くものだと云う事が久しく主張されてゐたが、そして又それを焙った後の価値をもよくするもであると信じられてゐたが、近来専門家の間に果たして年数と云うものが全ての種類の珈琲の飲料価値に同じ程度の好影響を與へるものであろうかと云う疑問が起って来た。

『珈琲の知識』98,99頁

ちなみにこの本においては、コーヒー生豆のエイジングは、リオコーヒーのような強質・粗質なコーヒー(リオ臭のあるようなコーヒーの事でしょうか?)は寝かせて軟らかくするのが良いが、一般的には新収穫のコーヒー豆の方が飲んで気持ち良いものであると述べています。ただ、後半181頁では、よいコーヒー店の見つけ方として「珈琲生豆は寝かせる程良いか?」と質問して「然り(その通り)」と答える店って書いてあるんですよね…

3つ目はストレートコーヒーとブレンドコーヒーの話。これに関しては、この本は今と違い、圧倒的ブレンド主義です。

珈琲を単用飲料にすることは稀である。否、殆どないと言ってもよい。又決して配合珈琲程の美味な飲料は単用では得られない。

『珈琲の知識』131頁

いまならば、ストレートコーヒーにはストレートコーヒーの、ブレンドコーヒーにはブレンドコーヒーの良いところがある、位の感じなんでしょうが、この本では、

通人振ってアビシニア産の所謂モカコーヒーを単用したりするのは誤ったことである。

『珈琲の知識』134,135頁

と、「誤ったことである」とまで書いてます。私、しょっちゅう「誤ったこと」してます。すみません。(「アビシニア」は今でいうエチオピア)ただ、わざわざこのように書くということは、モカをストレートで飲んでいた人が当時も居た、ということなので、ブレンド至上主義は当時の一般的な話でなく、筆者の好みなのかもしれません。

話があちこちに行きますが、最後4つ目はコーヒーを「おにぎりにして食べてた」話。

西暦紀元八百年頃には果肉、豆共に砕かれかためられ我国のにぎりめしの様なものにして食べられてゐた。今でもグアラと呼ぶアフリカの遊牧民族は珈琲のおにぎりを作ってゐるそうである。彼等には玉突の球位の大きさのおにぎり1個が十分1日の食料となり、長い行進を続けることの出来る精力を與えるのである。

『珈琲の知識』2,3頁

この話「初めて聞いた。コーヒーのおにぎりとか面白い!」と思いましたが、この記事を書いている時に確認すると、『コーヒーの世界史(旦部幸博,2017)』の38頁から「人類初のエナジーボール?」として細部は違うものの同じ様な話が書いてありました。読んだのに忘れてただけでした。ただ、個人的には「エナジーボール」より「おにぎり」の方が魅力的です。

他にも、コーヒーは挽きたてが一番良いという今と変わらない話から、チコリーを混ぜものとしていれるのは、少しならOKというかアメリカじゃそれがむしろ普通だし!という今とは少し違う話。コーヒーベルトの位置について「巨蟹宮星座と磨羯宮星座の間」と魅力ある記載してある所など色々楽しめました。


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