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新卒データサイエンティストが感じた小売DXにおけるドメイン知識の重要性

こんにちは、データサイエンティストの兵頭亮介(@onysuke)と申します。2021年4月にサイバーエージェントに新卒入社しました。
この記事では、入社して感じた小売DXにおけるドメイン知識の重要性と社内で行われている小売輪読会 Paper Retail について紹介したいと思います。

略歴
2021年早稲田大学にて修士(工学)を取得後、新卒でサイバーエージェントに入社。産業領域への機械学習の社会実装に興味を持ち、学生時代は畜産業を始めとした一次産業における映像監視システムの研究開発に取り組む。入社後は小売DX本部 アプリ運用センターのデータサイエンティストとして、会員プログラムの最適化や、クーポンの効果検証とターゲティングに従事。

入社後に小売のドメイン知識不足を痛感

入社後、「小売領域でデータサイエンスするぞ()」と意気込んでいたものの、聞いたことのない専門用語や商習慣に遭遇することが度々ありました。
例えば、リベート、メーカー協同販促、在庫管理などがそれにあたります。

もとより「データサイエンスでお金をつくりたい」思いで入社をして、AI事業本部のDSOps研修において ”DSがビジネスモデルを理解して事業貢献する” というマインドを学んで以降、小売のドメイン知識を学ぶ重要性を再認識しました。

私自身、学生時代は畜産業従事者の意思決定を支援する機械学習システム(具体的には監視映像から繁殖牛の分娩予兆を検知するシステム)*1 を研究していたこともあり、業界のドメイン知識をつけることは大好きです。サイバーエージェント入社以降も、チームメンバーにおすすめされた小売関連の本 *2 を読んだり、計量経済学と機械学習に関するゼミ *3 に参加するなど意識的に行動しており、チームメンバーと日々学んでいます。

少しずつ小売の知識が身につくとともに、生活に身近で巨大な市場規模をもつ小売領域にデータサイエンスを活用することにワクワクしていきました。

データサイエンティストがマーケティングを学ぶ意義

小売のドメイン知識と一言で言っても、ビジネスモデルや店舗オペレーション、マーケティングなど多岐に渡ります。その中でも、1990年代頃から “データマーケティング” という言葉があるように、データ活用との親和性が特に高いものの1つが、マーケティングの領域です。

例えば、マーケティングにおいて、販促施策を計画・実行をして、検証に基づき次の施策を決定するといった一連のプロセスを考えてみます。ここで、「先日行った施策の売上効果はどれくらいだったか?」「来週はどんな施策を誰に行うべきか?」といった、施策の因果効果の検証やそれに基づく意思決定が重要になってきます。

こういったプロセスにデータサイエンスが介入すれば、マーケティングにおいてより質の高い意思決定を行うことができると考えています。実際に現在、私たちのチームでは、Data Science Center 小売DX Lab *4 やAI Lab Econチーム *5 と密に連携しながら、クーポンの効果検証とターゲティングを中心としたプロモーション施策の開発を行っています。

ここで、小売DXにおけるデータサイエンティストはAI/機械学習や経済学といった分野だけはなく、マーケティングを学ぶ必要があることは言うまでもありません。

小売輪読会 Paper Retail という取り組み

このような背景から、小売分野、主にマーケティングに関する本や論文について発表を行う輪読会 Paper Retail をチームメンバーと定期開催しています。プロダクトを問わずに、データサイエンティストやエンジニア、ビジネスメンバーが集まって議論する場となっており、事業本部全体として技術と知識の底上げを目指しています。

これまでに、

  • オンライン広告によるスピルオーバー効果の検証

  • 飲料市場における期間限定商品のアンブレラマーケティング

  • ブランド広告による売上効果の検証

といった幅広いテーマが発表されています。以下にて、私が発表した資料を2つ紹介したいと思います。

テーマ① オフライン店舗の出店はオンライン購買にどう影響するか?

📌 概要
背景
オンラインチャネルとオフラインチャネルは相補 or 競合関係にあると言われている
手法
購買データとオフライン店舗の出店情報を用いたDIDにより、オフライン店舗の出店がオンライン販売売上高や総売上高に及ぼす影響を分析した
結論
オンライン・オフライン店舗は相補的な関係にあった
 ー具体的には、オフライン店舗出店によるビルボード効果(実店舗が屋外広告として機能する効果)が、オンライン販売の増加をもたらした
特に、もともとブランド認知が低い地域への出店が大きな販売増加をもたらした 

Can offline stores drive online sales? [Wang+, Journal of Marketing Research 2017]

テーマ② チラシ広告はオフライン購買ファネルにどう影響するか?

📌 概要
背景
広告(ここでは折込チラシ)がコンバージョンファネル(来店, 棚通過, 購買)のどこへ・どのくらいの影響があるかは明らかではない
手法
チラシ情報と店舗内回遊データセットの構築とパネル分析
結論
チラシはファネルの下部(購買)にのみ影響を与えた
チラシは掲載カテゴリの棚前通過数には影響しないが、購買点数を約10%増加させた
 ーこれは顧客が同ブランドの商品をより多く購入したことに起因する
棚が近接したカテゴリ間や同カテゴリ内でのスピルオーバー効果(訴求対象商品以外にもその便益を享受する現象)は観測されなかった

The Impact of Advertising Along the Conversion Funnel [Seiler+, QME2017]

まとめ

本記事では、データサイエンティストとして小売DXに取り組むにあたって、私が感じたドメイン知識の重要性について述べ、事業本部全体で取り組んでいる、小売関連の技術と知識の底上げを目的とした輪読会 Paper Retail を紹介しました。今回は本や論文の輪読会に焦点を当てましたが、ユーザインタビューや店舗視察なども含めて、引き続き小売領域のドメイン知識の蓄積に取り組んでいきます。そして、データサイエンスでお客様の小売DXに貢献したいと考えています。

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注釈
*1. 出身研究室の研究プロジェクト例。産業従事者の意思決定支援を目的とした機械学習システムに関する研究に取り組む
*2. 例えば、ストア・コンパリゾン―店舗見学のコツ
*3. スキルアップゼミ(社内ゼミ制度):参加自由の任意の勉強会とは異なり、大学における研究室やゼミのように少数メンバーにて研究テーマに沿って活動を行う制度
*4. AI事業本部の小売DXに特化した研究開発組織
*5. AI事業本部の研究開発組織 AI Lab の経済学チーム