猫の世話のお礼
寒波と嵐が続くイギリス
義姉夫婦がクリスマスからお正月にかけてスペインに行っている間、イギリスは雨風が吹き荒れ、道路は凍ってスケートリンク状になり、歩くのも危険なほどでした。留守中に猫の世話を頼まれた夫は、強風と寒さと凍った表面で歩くのもやっとの夜道を1日置きに病院の行き帰りに、親戚宅へと徒歩で往復しました。
その後南欧から帰った義姉夫婦が、猫のお礼に夫をレストランに招いてくれました。レストランは昔の駅を使用した瀟洒な建物です。
猫の世話のお礼
義兄が、「スペインはとても天気が良くて、毎日バルコニーに座ってたけど暖かかった」と言い、義姉はずっとスペインで食べた料理の話をしています。
「次々と料理が出てくるんだけど、最後に出てきたクリスマスのケーキはね、3人の王様のケーキと言うの」
私は長い話の最初を聞き逃していました。
「それってレストランですか?」
「いいえ、マンション。友達のマンションへ招待されて、クリスマスの食事を全部一緒にいただいたの」
義姉夫婦はスペインに年何回も行っており、そういえば以前スペイン人夫婦と知り合ったと聞いたことがあったっけ。
「そのご夫婦とは最初どこで知りあったんでしたっけ」
「何年か前にマラガで食事に行ったレストランが混んでて、テーブル相席になったのが、初めて」
私が知る限り、2人はスペイン語を話さない。
「英語で話すんですか?」
「ほとんど英語で話す、私たちも少しスペイン語で話す」
と、義兄。
「その後また偶然カフェで会って一緒にお茶をし、連絡先を交換して、その人たちがイギリスに来たときも一緒に食事したの」
私はクリスマスをスペインの伝統的な食事で一緒に祝えた義姉夫婦をとても羨ましく思いました。
知らないうちに申告漏れしていた日本の収入
「最近どこかに出かけた?」
義姉はさっきから何度も同じことを夫に聞きます。
「病院」
と夫が答え、私が付け加えました。
「あと、税理士の事務所。それ以外はどこにも行ってない。ずっとイギリスで申告すると知らないまま申告漏れしていた日本の収入の件で頑張っているのですが、彼は私の頭がそのことでいっぱいだって言うんです」
いつか乗り越える
「それは大変ね。でもさあ、今の大変さも乗り越える日が来るわ!」
と義姉が言いました。
親戚がスペインで過ごした間、私は夫と2人で非常に高くなるかもと相談センターの人に脅された罰金の仕組みを調べたり、税理士と見積もりの交渉したり、税理士に送る数字をエクセルにしメールで送ったりしています。
税理士事務所に行くのも初めてで交通が不便なところにあった上、電車が途中で止まって動かなくなって凍えそうな空気の中、バスやタクシーを2人であちこち探し回っていたことが思い出されます。
レストランから帰り道、台風一過で空が澄み渡った空気の中で、紺色の闇がゆっくりとバラ色の空に降りて来ます。
「日が長くなってビックリするわ」
「2週間前はこの時刻真っ暗だったもんね」
日がだんだん暮れて行く小道を夫と歩きながら、税理士事務所に行くタクシーを探したあの凍てつくような灰色の朝の方が、スペイン旅行よりも私は良かったんだ、と思いました。
不安でいっぱいな税金申告との闘いもいつか、かけがえのない輝きを持った日々に変わるかもしれません。